NEXCO東日本、高速道路と福祉をつなぐ「高福連携」

高速道路のサービスエリアに伊奈特別支援学校の生徒さんの笑顔があふれる

NEXCO東日本は、高速道路のサービスエリア(SA)などを、地域に開かれた場所として社会課題の解決に結び付ける取り組みを進めている。2月上旬には、常磐自動車道の守谷SAで、地域の特別支援学校と連携。障がいのある中学生自らが作ったビーズ作品や木工品などをSAで展示し、販売を行った。同社は、農業と福祉をつなげる「農福連携」からヒントを得て、高速道路という資源を通じて障がいがある人が活躍する場を広げている。(オルタナ編集部/環境ライター=箕輪弥生)

■ 高速道路のSAで特別支援学校の生徒が製品を販売

先生が考案したビーズ作りキットでお客様の前で作り方を実演する。就労への貴重な体験になるという

これまで主に高速道路の利用者が休憩や食事をする場所だった高速道路のSAやPA(パーキングエリア)などの休憩施設はここ10年で大きく模様替わりしている。地域の野菜や特産物が販売され、食事もローカル色のあるテナントが数多く入る。ドッグランが併設されたり、ウォークインゲートという歩行者用の出入口を整備していたりするSAがあるほどだ。

高速道路の利用者だけではなく、地域の人も気軽に訪れ楽しむ、まさに「地域をつなぎ、地域とつながる」場所になりつつある。

このSAやPAが社会課題を解決するという新たな視点で活用に広がりを見せている。それがNEXCO東日本の展開する「高福連携」だ。

取り組みの一つが2月5日、常磐自動車道上り線守谷SAで行われた。この日、地元の茨城県立伊奈特別支援学校の中学3年生17人が自分たちで作ったビーズ作品や木工品、しおりなどを、特設コーナーに展示し、訪れた人に直接販売した。

同校では「農芸」「木工」「ビーズ」「縫製」「クラフト」などのテーマで班に分かれ、協力して製品を作っている。同校ではこれらの作業学習を自立と社会参加に向けた学習と位置付けて強化している。

この日は、唐辛子粉(農芸班)、ストラップ(ビーズ班)、牛乳パックから作ったコースター(クラフト班)、マルチカバー(繊維班)及びタオルハンガー(木工班)などの製品を生徒たち自らが販売した。

レジを打ち、計算をして、お客様に声をかけながらおつりを渡す。すべての体験が自信になる

真剣なまなざしでレジを打つ3年生の中村光多くんは、SAから借りた本物のレジを使って練習し、この日に備えたという。レジを打ち購入したお客様におつりを渡し、小さな声だがしっかりと「ありがとうございます」と伝えた。

担任の先生によると中村くんはこれまでは人と接することが苦手だったという。レジ打ちをすることについて尋ねると、中村くんは戸惑いながらも「難しいけれど売れるとうれしい」と話してくれた。

同校の関根眞由美副校長は「生徒たちは緊張しているけれど、自分たちが作ったものを一般の人に販売できて、やりがいも感じている。大きな自信になったと思います」と分析する。

「NEXCO東日本との取り組みは生徒にとっても学びが多い」と話す伊奈特別支援学校の関根眞由美副校長(左)

同校中学部主事の石澤昭博教諭によると、知的障がいのある生徒たちは、これまでも学校のバザーなどで両親や知り合いに自分たちの製品を展示販売することはあったが、不特定多数が集まる高速道路のSAのような場所で一般の人に販売するという体験は初めてだという。

石澤教諭は、「販売や展示を通じて、作品作りからコミュニケーションや計算など生徒たちが多くのことを実践的に学ぶ場になった」とその成果を説明する。

「生徒それぞれの個性に合わせて作業を計画する」と話す伊奈特別支援学校の石澤昭博教諭

■地域の福祉拠点と丁寧にリレーションを築く

しおりやコースターは給食などで出る牛乳パックなどを使って生徒たちがつくった

NEXCO東日本ではこれまでも、地域の社会福祉法人と連携してSA内での花壇の手入れや草取りなどの軽作業を障がいを持つ方に依頼し、対価を支払う取り組みを行ってきたが、守谷SAで行ったような生徒自身が「販売」を行うのは初めてのケースだ。

今回の守谷SAでの取り組みを行った同社関東支社 谷和原管理事務所(茨城県つくばみらい市)の宮野敏雄所長によると、これまでも同特別支援学校と連携し、同校の先生を招いて障がいを持つ人との接し方を学ぶ「心のバリアフリーに関する勉強会」を行ったり、高速道路を安全に管理する働く車を同校の生徒に知ってもらう「職場見学会」を行ったりと、じっくりと交流を深めてきたという。

さらに昨年12月には同校の生徒の作品展示を行うなど、同特別支援学校との連携をさまざまな形で深めてきた。

同社CSR推進課竹川郁子課長によると、もともと「高福連携」の考え方は農業と福祉の連携を行う「農福連携」をヒントに北海道支社の室蘭管理事務所で発案され、人手が足りない植栽の整備などを障がいを持つ方にお願いして雇用の機会を作ろうとすることから始まったという。

「農福連携」は障がい者等の農業分野での活躍を通じて、自信や生きがいを創出し、社会参画を促す取組を指す。「農福連携」では耕作放棄地を再生したり、地域の活性化の一端を担ったりするなど、注目される事例も数多く報告されている。

■福祉現場の課題を解決し、地域との連携をつくるwin-winな「高福連携」

守谷SAで「高福連携」に取り組む NEXCO東日本の担当者(左から CSR推進課 竹川郁子課長、関東支社 谷和原管理事務所 宮野敏雄所長、同 豊川弘行副所長)

同社の「高福連携」の取り組みは、今年になってから広がりを見せている。北海道支社苫小牧管理事務所では、1月末、障がい者支援団体と連携して、高速道路区域内の間伐材を活用した「コースター」を手作りし、交通安全キャンペーンのノベルティグッズとして活用する取り組みを行った。

また、東北支社鶴岡管理事務所でも、1月末に山形自動車道 櫛引PAでは福祉団体と連携し雪灯籠づくりを行う取組みを行うなど、障がい者の活動機会を拡大する試みを広げている。

同社CSR推進課竹川課長は「雇用や生きがいづくりを促進したいという福祉現場の課題と、高速道路を地域活性化の資源としたい同社のメリットが一致したwin-winな取り組み」と説明する。

同社では各支社で実施した「高福連携」の取り組みを、「社内外への発信を強め、効果があったものは今後も水平展開していきたい」と意欲的だ。「地域をつなぎ、地域とつながる」高速道路は、社会課題解決の場としてもその役割を広げていきそうだ。

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オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

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