商業捕鯨の商業的可能性は?(坂本 優)

■私たちに身近な生物多様性・番外3

日本は先月(2019年6月)末をもって国際捕鯨取締条約から脱退し、今月以降、我が国の領海と排他的経済水域内で商業捕鯨を再開する。私は、条約からの脱退については反対ではないが、再開される商業捕鯨が、「商業的」に成り立つのだろうか、との懸念をぬぐいさることができない。(坂本 優)

まず供給面から言えば、野生の哺乳類の肉を食肉として、将来にわたって安定的に供給することの難しさだ。クジラ類は、哺乳類のなかでも繁殖率が低く、成長に要する期間も長い。

急激な温暖化に伴う海水温の上昇などによる、資源量や分布、回遊ルートの変動も予測しがたい。捕鯨船団を組んで実施する新たな捕鯨に、事業としての安定性、持続性は見込めるのだろうか。少なくとも発展性があるとは到底思えない。

また需要という側面から見たとき、鯨を捕り続けなければならない社会のニーズはどの程度あるだろうか。捕鯨を続ける理由として、伝統的な地域の生業ということの他に「食文化」ということも言われる。

「鯨を食べるのは日本の食文化であり、それを否定するのは人種差別」という議論もある。もとより何を食べるか食べないか、何を食べてきたかは、その地域の歴史、気候風土、宗教などと密接に結びついている。食文化については異なる文化圏の人々に強制されるものでないことはもちろんだ。

「和食:日本人の伝統的な食文化」は、ユネスコの無形文化遺産に登録されている日本の誇らしい文化だ。しかし、和食と聞いて鯨料理が思い浮かぶ人はどの位いるだろう。

「尾の身」や「鯨ベーコン」などの部位名や加工食品を知っている人は多い。地域の名物料理や珍味といったものも含めれば日本中に数多くの鯨料理があることだろう。多様な食材の一つであることは間違いない。

しかし、今、鯨肉を食べたい、鯨肉を食べて日本食文化を守らなければ、と切実に考えている日本人はどの程度いるだろうか。

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坂本 優(生きものコラムニスト/環境NGO代表)

1953年生。東京大学卒業後、味の素株式会社入社。法務・総務業務を中心に担当。カルピス株式会社(現アサヒ飲料株式会社)出向、転籍を経て、同社のアサヒグループ入り以降、同グループ各社で、法務・コンプライアンス業務等を担当。2018年12月65歳をもって退職。大学時代「動物の科学研究会」に参加。味の素在籍時、現「味の素バードサンクチュアリ」を開設する等、生きものを通した環境問題にも通じる。(2011年以降、バルディーズ研究会議長。趣味ラグビー シニアラグビーチーム「不惑倶楽部」の黄色パンツ (数え歳70代チーム)にて現役続行中)

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