1.文化が「にじみ出る」資生堂
資生堂の創業者福原有信氏の孫である福原義春氏は、「企業としての文化振興」を強く後押しし、文化功労者にも叙せられた中興の祖ともいえる人物です。福原義春氏の著書『企業は文化のパトロンとなり得るか』によると、「資生堂の製品がなぜ海外に受け入れられるのか、長い間わからずにいた」とあります。(中畑 陽一)
しかし、あるときそれは企業文化・アイデンティティーが受け入れられたのだということが分かったそうです。資生堂の企業文化、企業思想がどこにもない個性として、商品開発やパッケージに「にじみ出ていた」のです。このとき、自社の文化の蓄積がいかに重要かという原理を理解し、1990年には企業文化部を設立するに至ります。
福原義春氏の眼差しは、自社の企業文化のみならず、社会の文化にまで広がります。当時大ヒットしたトム・ピーターズ著『エクセレント・カンパニー』の、「超優良企業に共通するのは、優れた企業文化をもち、社員を愛し、社会に貢献していく会社」という言葉を引用し、これからの時代に生き残るのは、社会的価値を創造し、ステークホルダーに好きになってもらう企業となることであると、もう30年近く前に見抜いていたのです。
世界には問題が山積みで、CSR、ESG、最近はSDGsなど、社会的責任や社会課題への対応が叫ばれて久しいですが、仮にそれらがすべて解決された後、残るのはきっと誰もが創造性を発揮し、自分らしく、認め合って生きてける世界ではないでしょうか。それはきっと「文化的な世界」のことだと思います。その意味で、資生堂が目指す先は、極めて長期的で、それでいて歴史に根差した地に足の着いたものに違いありません。