英国のプロサッカーチーム「マンチェスターユナイテッド」所属のマーカス・ラッシュフォード選手は15日、学期末で終了する予定だった低所得家庭児童への食事支援施策を継続するようジョンソン首相に呼びかけた。翌日に選手と直接会話した首相は決定を覆し、夏休みの間も食料品券の配布を続けると発表。英国政府は新型コロナによる学校閉鎖中、無償給食供与の代わりに一人週15ポンド分の食料品券を配布していた。(ロンドン=冨久岡ナヲ)
英国では、低所得家庭の児童130万人あまりに学校給食が無償で提供されている。もっとも貧困度が高いエリアでは3人に一人がこの制度を利用しており、その中には給食だけが1日一回のまともな食事という児童も少なくない。
3月23日からのロックダウンで学校が閉鎖されたあと、無償給食の代替え措置として英国政府は一人あたり週15ポンド(約2千円)の食料品券を解除まで毎週支給することにした。通常は、春休みなど学校が休みの間の食事補助はないのだが、新型コロナによる減収や失業の影響を鑑みての特別措置だ。食料品券はスーパーなどでの買物に使用することができる。金券ではなく食品を詰め合せたギフトボックスを毎週各家庭に届けている自治体もある。
ロックダウンの段階的な緩和に伴い、英国政府がこの特別支給を学期末で終了すると6月14日に発表したところ、慈善団体などから一斉に反対の声があがった。サッカーのプレミアリーグチームのひとつ、マンUのストライカーであるマーカス・ラッシュフォード選手は食料品券支給の継続を求める公開文書をSNSに投稿、ジョンソン首相に再考を強く訴えた。
ラッシュフォード選手は、自身も子どもの頃に無償給食とフードバンクの恩恵を受けて育った。マンUに入団後は貧困撲滅をめざす慈善活動に参加、すでに自らの寄付も含め20ミリオンポンド(約27億円)の募金集めに成功した。ロックダウンが始まってからは、売れ残った青果物や食料品をもらい受けて全国の慈善団体に配る「フェア・シェア」と共に、毎週300万食を生活困窮者に供給している。
訴えを受けとめたジョンソン首相は翌日、ラッシュフォード選手に電話した。会話の後すぐに政府は120ミリオンポンド(約162億円)の追加予算を組み、6週間の夏休みの間も食料品券の支給を継続するとUターン発表。
ジョンソン首相は記者会見で、ラッシュフォード選手の情熱に動かされたと語り、選手のほうはSNSで「何て言っていいかわからない。ただ、みんなが力を合わせたら何ができるかを見て欲しい。これこそが2020年のイングランドなんだ」と投稿した。マンUも「君を誇りに思う」と絶賛した。
この特別延長措置は夏休みの6週間のみ。9月からは学校が再開され給食が始まるため食料品券の支給は終了する。ラッシュフォード選手は、解除になっても経済状態がすぐに改善するわけではなく、この6週間は次の行動への準備期間だとBBC英国国営放送のインタビューで語った。