殺されたソムリエ・ペトロ

「ショート・ショート」(掌小説)こころざしの譜(51)

 朝のうちにブドウ木の剪定を終え、うっすらと雪を残した山の斜面を見渡すテーブルで朝刊を広げた田畑光一は思わず声をあげた。「何ですか」大輔が驚いて覗き込むと、東奥日報社会面に「横浜・山下公園でホームレス、中学生に襲撃され死亡」と大見出しが躍っている。田畑は、鴨脚勇という珍しい名前に記憶があった。鴨の脚と書いて「いちょう」と読む。葉っぱの形が似ているんで、と照れ笑いしていたあの男が殺された。
「た、た、田畑校長、今どきの中学生って、ひ、ひどいことするね」おさまっていた吃音がぶり返し、大輔は泣きべそをかいている。
「大輔、ペトロおじさんのこと、覚えているか」
「もちろん。ルミュアージュの先生だもの」

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希代 準郎

きだい・じゅんろう 作家。日常に潜む闇と、そこに展開する不安と共感の異境の世界を独自の文体で表現しているショートショートの新たな担い手。この短編小説の連載では、現代の様々な社会的課題に着目、そこにかかわる群像を通して生きる意味、生と死を考える。

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