ところが、受付で規制していて入れてくれない。驚いたことに、既に他の新聞社が3社も来ていた。これはマズイ。電話で福さんに報告すると、悪い奴ほどよく眠るんだ、何とかしろ、俺も今行く、と怒鳴りまくる。
 福キャップがやってきたころには報道陣は20人に膨れ上がっていた。
「面会時間は終了しました。玄関を閉めるので報道の皆さんは退出してください」
 夜になって警備員が記者を追い出しにかかった。仕方なくゾロゾロと玄関に向かおうとすると、福さんからどつかれた。おいおい、ここで帰るアホがいるか。トイレだ、トイレ。
「えっ、トイレ?」
「7階に上がってトイレに隠れよう」
 訳も分からず、私は福さんと男子トイレの個室に立て籠った。外側に「故障中。使用禁止」の紙を張る。福さん、いつの間に。
 有里ちゃんがバケツや掃除ブラシを担いできて男子トイレの掃除道具の部屋にぶち込んだ。
「これで女子トイレの空いた掃除道具部屋に籠れるわ」

挿絵=井上文香


 それからが長かった。便座を共有して座るのだが、福さんが太っているせいで、落ちそうになる。何しろ狭い。
「ああ、腹減ったなあ」思わずつぶやく。福キャップはニヤリと笑って、ポケットからアンパンを取り出す。
「食うか?缶コーヒーもあるぞ」
「用意がいいですね」もちろん、皮肉だ。
「常在戦場。ワンカップもあるが、これは夜食にしよう」
 思わず、吹き出してしまった。
 午後9時、廊下の灯が消えた。1時間ほど待ってトイレをはい出る。やばい、誰かに見られていると思ったら有里ちゃんが女子トイレからこちらをうかがっている。
 701号室の名札は社長室長に間違いない。有里ちゃんがコン、コンとノックをし、「お薬と検温の時間です」とドアを開ける。 

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