ウッドショックが起きた裏側

【連載】「森を守れ」が森を殺す

今年始めからウッドショックが起きている。世界的に木材価格が急騰している状況を指す。それこそ価格が倍以上になった例もあり、木材取引現場を大きく揺るがす。とくに日本は外材輸入が厳しくなり、国産材価格も高騰した。(田中 淳夫=森林ジャーナリスト)

何があったのか。実はアメリカのバブルが影響しているという。コロナ禍で木材業界は減産していたが、予想に反して建築業界は活性化した。自宅にこもるようになった市民は、住宅を新しく購入するほかリフォームも盛んになったからだ。さらに低金利と莫大な財政出動が行われた結果、その資金が木材取引市場にも流れ込んできた模様である。

おかげで米材の価格が急騰、輸出もタイトになったうえ、欧州材も高値のアメリカに回された。同じことは中国でも起きていて、世界中の木材を高値で買いつける。日本は、その価格に買い負けして木材不足に陥ったのである。

外材を扱っていた製材や集成材、プレカット業界などは、焦って国産材の調達に向かった。これらの業界は装置産業だから、工場を止めると損害を負う。その結果として国産材価格も跳ね上がった。

材価が急騰したのなら。林業界は喜べるはずだ。長年低迷に苦しんできたのだから。増産すれば、もっと儲けられるチャンスではないか、と思う。だが日本の林業界は、そんな小回りの利いた動きが苦手なのだ。

どんなに急いでも、行政手続きや山主との契約から伐採搬出までには3カ月はかかる。資材や人員の手当ては簡単ではない。もし高額で契約しても伐採搬出した頃に以前の価格にもどったらどうすると戦々恐々なのだ。バブルは、いつ弾けるかわからない(本稿が掲載される時期にどうなっているかも不明だ)。

それに林業界は伐採や搬出のほか、作業道開削なども補助金頼りが恒常化している。しかし補助金は年間で決まっているから、急に増額されない。だから、木材もすぐに増産できないのだろう。

もともと伐採搬出業者は、現在伐る山を山主と従来の価格で契約していた。そこで木材価格が急騰したのだから大儲けだ。だが、山主には還元されない。

では、次の伐採予定の山を高く契約するかというと、そうでもない。当然ながら山主は面白くないから契約は進まない。

これらの点から見えてくるのは、まず日本の林業も世界経済とリンクしていること。日本の経済力が落ちて米中にたちうちできないこと。日本は木材に関する業界がバラバラで連携していないこと。また木材商社などは、昨年末から価格急騰の動きをつかんでいたが、林業現場はそれを聞いても動かなかった。情報への感度の低さが浮かび上がる。

一方で、しょせんはバブルにすぎないと見ることもできる。木材の生産量は世界的に十分あり、現在の高騰は、木材を求める所に適切に届けられない流通の問題だからだ。それらが改善されたら高値は短期間で終息するだろう。

コロナ禍であろうと、経済はヴィヴィドに動いている。本来の経営とは、どの業界も自ら世界情勢も含めて将来の需給に関する情報をキャッチして、すばやく立ち回るものだ。ウッドショックは、それができない日本の林業界の弱点を露出させただけかもしれない。

atsuotanaka

田中 淳夫(森林ジャーナリスト)

森林ジャーナリスト。1959年生まれ。主に森林・林業・山村をテーマに執筆活動を続ける。著書に『森と日本人の1500年』(平凡社新書)『鹿と日本人』(築地書館)『森は怪しいワンダーランド』『絶望の林業』(ともに新泉社)『獣害列島』(イースト新書)などがある。

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