「クラウドアイランド」目指す山形の小さな島

(松本)「未来の日本は、『終身雇用・年功序列・一拠点生活』から『マルチワーク・副業・多拠点生活』への転換が進むと考えています。」

「飛島をはじめ、離島行政はかなりの部分に税金が使われています。それを知ったときに、島で取れる海産物、癒される景色、文化や習慣といった資源をオープンにして公の財産にしていきたいと考えました。」

「そのための方法として、『とびしまクラウドアイランド』構想が生まれました。リアルで島を体験してもらうことに加え、ITツールを活用して島の魅力を画像や動画などで発信したり、全国の人とオンラインで関係を築いています。」

「感覚的には『とびしま』というアプリをインストールしてちょっと使ってみる、といった感じでしょうか。」

ーーよく島は閉鎖的な社会だと言われますが、クラウドアイランド構想を進める上でやりにくい面はありませんか。

(松本)「意外かも知れませんが、飛島は閉鎖的な風土があまりありません。江戸時代には北前船の交易も盛んで島外の物資を始め、人や文化なども流入していたからかもしれません。先祖代々の土地を守るという発想が薄く、島暮らしは仮住まい、のような風土があります。」

合同会社とびしまスタッフの皆さん

「小さなコミュニティで、変化や島外の人にもオープンな文化があったので、クラウドアイランド構想も進めやすいという側面はあります。」

「離島問題は自治会単位で語られることが多く、島全体の資産をオープンにし、島外も含めた共有財産にするという発想は他に聞いたことがありません。その意味でクラウドアイランド構想は新しい取り組みで、今後他の島とも連携し、広めていきたいと思っています。」

ーー最終的には移住者を増やすということが目標ですか。

(松本)「山形県や酒田市とも協働して、移住促進の取り組みはしています。ただ私自身は必ずしも定住でなくても良いと思っています。観光や定住といった区別をあまり意識せず、1週間でも「住む」体験をしてもらえればと考えています。」

(小川)「関係人口という言葉も最近よく目にしますが、これからは『本土』や『島』といった物理的な壁や線引きにとらわれず、好きな場所に好きに行く(リアルでもオンラインでも)ことがもっと広がればいいなあと思います。」

ーーこれまで行った事業で島に変化はありましたか

(松本)「島の生活を体験してもらうキャンプに参加した方が、移住を決めてこの春から島で働き始めたということがありました。」

ーー今進んでいるプロジェクトはありますか。

(松本)「すでに島を舞台にしたツーリズムをいくつも企画しています。今『とびしまを舞台に100種類の合宿をつくりたい』」というプロジェクトの準備を進めています。その『100種類の合宿を作るための合宿』を今年の8月末に島内で行う予定です。映像制作や音楽制作などテーマの異なる合宿を同時に行うことで『共創』が生まれ、新たな活動につながっていくことも意識しています。」

ーー3ヶ月の有給休暇を制度化しているのは働き方としても革新的ですね。

(小川)「当社は3次産業(体験の生産)が収入の柱になっており、秋冬になると来島客が激減することから10〜12月と1〜3月のそれぞれ3ヶ月ずつを有給休暇としています。各々の担当業務によって秋か冬か時期が違います。」

「春夏は全員が島に揃い、秋冬は半分ずつになるイメージです。有休期間中は島でのんびり過ごす人もいれば海外旅行をしたり、バイトや研修に行ったりと人それぞれです。」

離島問題は、突き詰めて考えれば日本社会全体にも当てはまる問題だ。「クラウドアイランド」構想や同社の働き方は、いずれ離島の課題解決のみならず日本全体の課題解決にもつながる発想だと言える。

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山口 勉(オルタナ副編集長)

大手IT企業や制作会社で販促・ウェブマーケティングに携わった後独立。オルタナライターを経て2021年10月から現職。2008年から3年間自転車活用を推進するNPO法人グリーンペダル(現在は解散)で事務局長/理事を務める。米国留学中に写真を学びフォトグラファーとしても活動する。 執筆記事一覧

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キーワード: #ESG経営

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