ボルボ、「脱炭素」はWHYからHOWへ

ボルボ・カー・ジャパン マーティン・パーソン社長インタビュー

ボルボは、2030年までに全世界で販売する乗用車をすべてEV化する。2040年には、製造も含めた全行程でカーボンニュートラルを目指す。ハイブリッド車などと両天秤を掛ける日本メーカーとは一線を画し、EV一本に舵を切った。その勝算を同社日本法人のマーティン・パーソン社長に聞いた。(聞き手:オルタナ編集長=森 摂、副編集長=山口勉)

ボルボ・カー・ジャパン、マーティン・パーソン社長(撮影:山口勉)

マーティン・パーソン ボルボ・カー・ジャパン社長。1971年スウェーデン生まれ。1996年に交換留学で来日。1999年にボルボ・ジャパン入社。2008年、本国のボルボ・カー・コーポレーションのグローバルCRM責任者に就任。ロシア、中国に赴任し、ボルボ・カー・ロシア社長を経て2020年10月から現職。

戦略を一つに絞る

――日本へは二度目の赴任で、本国のスウェーデン、中国、ロシアなどで勤務してきたそうですね。「脱炭素」を巡る世界の動きをどう見ますか。

中国の動きが早いです。脱炭素に向けた電動化の意思決定にも、イノベーションにもスピードがある。日本もその方向に向かっていますが、スピードが遅いと感じます。

日本政府も「2050年カーボンニュートラル」というゴールは掲げました。でもそれを支えるプランがないと感じます。ゴールだけ描いてもだめなのです。「脱炭素」はWHY(なぜ)からHOW(どうやって)の時代に入りました。

――そもそもボルボはなぜ電動化にシフトしたのですか。

当社は自動車業界では決して大きな会社ではありません。複数の戦略を持つことは難しいのです。EVという1つの戦略に絞る必要がありました。

2017年という、かなり早い段階で「クリーンディーゼル」の生産中止と電動化を宣言しました。当時、これはかなり大胆な方向転換でした。なぜなら当時、欧州の自動車業界はかなりクリーンディーゼルに頼っていたからです。日本でもディーゼルは売れていました。

当社は「脱ディーゼル」のパイオニアでした。そして2019年にディーゼルはラインナップから外れ、電動車を投入したのです。

政府と消費者がサステナビリティを後押し

――スウェーデンの企業は環境や持続可能性に対する意識が総じて高いですが、その理由はどこにありますか。

「トップダウン」と「ボトムアップ」の両方があると思います。トップは行政です。政府が環境対策や、サステナブルなビジネスを推進しています。ボトムとは「消費者」です。消費者が持続可能な商品を求めているのです。

スウェーデンでは「持続可能性が高い商品は多少価格が高くても買う」意識が浸透しています。だから消費者は進んで対価を払います。電気が良い例です。グリーン電力は化石燃料由来の電気よりも割高ですが、それでも消費者はグリーン電力を選ぶのです。

――国内ではガソリンの価格が高騰しています。その意味では、EVに追い風が吹いています。若い世代も環境問題への関心が高いようです。

マーケットシフトですね。人々が変化を実感したとき、市場は急激にシフトします。今、サステナブルな市場へのシフトを人々が実感しているのです。

スウェーデンでもボトムアップは若い世代から始まりました。気候変動は彼ら/彼女らにとって他人事ではありません。

重要なのは、人々はサステナビリティの対価を払う気持ちがあるということです。サステナブルな製品を作っただけでは市場は生まれません。消費者には「多少高くてもそれを買いたい」と思ってもらわなければなりません。

ブロックチェーンを駆使して原料の調達を把握

――バッテリー製造では、コバルトなど「紛争鉱物」などの問題もあります。

当社は、LCA(ライフ・サイクル・アセスメント)に取り組んでいます。原材料の調達から製造、リサイクルまで考えて、脱炭素や様々なリスク管理を進めています。

2019年11月からブロックチェーン技術を活かし、トレーサビリティを確実にできるようにしました。適切に調達された原材料が使われているかを把握できるのです。ボルボはブロックチェーン技術で原材料の調達を把握した最初の企業の一つです。

サプライチェーン上の労働環境など、人権問題もチェックしています。それら全てがボルボのブランドを作るのです。我々はエシカルな企業を目指しています。CSRレポートでもILOの中核的労働基準などへのコミットを明言しました。

「野心的目標」を掲げ、競争力を高める

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山口 勉(オルタナ副編集長)

大手IT企業や制作会社で販促・ウェブマーケティングに携わった後独立。オルタナライターを経て2021年10月から現職。2008年から3年間自転車活用を推進するNPO法人グリーンペダル(現在は解散)で事務局長/理事を務める。米国留学中に写真を学びフォトグラファーとしても活動する。 執筆記事一覧

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