「企業の女性登用は、特別扱いではない」とキャシー松井氏

記事のポイント


  1. ジェンダーギャップの解消に向けて、女性登用に注力する企業が増えた
  2. その中で、「女性だけ下駄を履いていて特別扱いだ」との批判も聞こえる
  3. ウーマノミクスの提唱者・キャシー松井氏に話を聞いた

長年、ジェンダーギャップランキングで低位に位置してきた日本。しかし近年、企業は女性取締役や女性管理職の登用に注力し、政治の領域でも25年には日本初の女性首相が誕生した。ジェンダーギャップ解消に向けた日本の現在地と、組織におけるDEI(ダイバーシティ・エクイティ・インクルージョン)の重要性について、ウーマノミクスの提唱者・キャシー松井氏に話を聞いた。(聞き手・オルタナ輪番編集長=北村佳代子、吉田広子、写真・廣瀬真也)

キャシー松井氏 MPower Partners Fund L.P. 共同創設者兼ゼネラル・パートナー
ゴールドマン・サックス証券の元日本副会⻑およびチーフ日本株ストラテジスト。1999年に提唱した「ウーマノミクス」の概念はその後広く世界に浸透し、日本政府も女性活躍推進を経済成⻑戦略として打ち上げるに至った。多様性、コーポレートガバナンスと持続可能性を経済合理性の観点から分析し、多くの企業や投資家に影響を与えている。2020年に『女性社員の育て方、教えます』を出版。ハーバード大学、ジョンズホプキンズ大学院卒。

■日本の女性就業率は世界トップクラス

――日本のジェンダーギャップの現在地をどう評価していますか。

私がウーマノミクスのレポートを書いた1999年当時、日本のマクロ経済の環境は、相次ぐ金融機関の破綻や不良債権問題に直面し、公的資金を注入しても景気回復が見込めず財政赤字は膨らむ一方で、人口動態の問題も顕在化するなど、非常に厳しい状況にありました。

当時、ゴールドマン・サックス(GS)の投資調査部で、国内外の機関投資家向けに日本の株式市場に関するアドバイスをする立場にありましたが、投資の大前提となる「成長への期待」やポジティブな兆しが全く見当たらず、強気になれずにいました。

同時に当時の私は、ちょうど息子を出産し、4か月間の産休を取得してから元のキャリアに復帰した後でもあったのですが、日本人のママ友に私のように100%フルで職場に復帰した人たちが極めて少ないことへの驚きがありました。私よりも教育水準が高く、経験や知見も豊富な女性たちが、なぜ出産後、復帰したくてもできないんだろう、と疑問を抱いていました。

そこで私は日本の人口動態にフォーカスし、女性の就業率を調べました。ママ友たちの低い復帰率が示すように、案の定、日本の女性就業率は非常に低く、アナリストとして、「もし仮に、女性の就業率が男性並みなら、日本のGDPにどれだけの効果があるのだろう」と試算したのです。

その時、私が提唱したウーマノミクスが、まさか後に、日本の政策につながるとは思ってもみませんでした。2013年に安倍晋三首相(当時)が、「アベノミクス」の成功のためにウーマノミクスは不可欠だと発信した時、私も含めて周りは皆びっくりしました。国のトップが、多様性やジェンダーギャップの解消に言及したこと自体、初めてだったからです。

国のトップが経済成長に不可欠だと発言した途端、これまで一部の人しか関心を寄せていなかった女性の登用というテーマが、初めて経済合理性に基づく議論にシフトしました。今では女性の活躍について日常会話でも話されますし、景気が回復し女性の雇用機会も増えました。今、日本の女性就業率は、欧米よりも高く、世界でもトップクラスに立っています。

■課題は女性就業者の「質」の転換

しかし、問題はその質です。女性就業者の約半分は、相変わらず非正規雇用です。非正規雇用の人材が、リーダーシップ層に昇りつめていくキャリアパスはなかなか難しいものがあります。その結果、リーダー層の女性の数はまだ多くありません。民間・公的部門の両方において、それが言えます。

日本政府も育児休業制度や女性活躍推進法など、政策面でさまざまな後押しをしてきました。日本は保育施設も増やし待機児童問題もかなり解消されてきました。

米国には育児休業制度はありませんし、METAやアマゾンなど福利厚生が手厚い大企業を除けば、多くの企業でそうした制度は整っていません。米国人の私には、日本の保育システムは、そのキャパシティといい、コストといい、世界一コスパが良いように見えます。パパの育児休業も1年間取れ、休業前の約6割の給付金も支給されるなど、非常に充実しているのです。

もちろん課題もあります。例えば、香港やシンガポールなどでは、女性リーダーの多くは外国籍の家事使用人を活用しながらキャリアを続けていますが、日本で許可されているのは外国人だけです。

共働き家庭でも、家庭内の家事負担が五分五分になりづらい現状がある中で、働く日本人女性をサポートする人たちを、どうやって供給していくのかは、今後、さらに検討すべき課題でしょう。

■女性の登用「特別扱いではない」

――組織においてなぜDEIは重要なのでしょうか。

今の日本は、何をやっても右肩上がりだった戦後の経済とは大きく環境が異なります。従来通りのやり方や考え方では、イノベーションはあまり起きません。

女性だけでなく、外国籍や障がい者など、メインストリームのグループとは別の次元で物事を考えられる人がいる組織の方が、よりイノベーションを生み出しやすく、またリスクの軽減にもつながります。攻めと守り、その両面でDEIは重要です。

米フォーチュン500社でも、取締役会の多様性が高いほどROEが高いとのエビデンスもあります。日本の経営者の多くも、この相関関係を理解していますし、女性の比率を高めたいと考えています。

問題はそれをどう進めるのか、です。最も大事なのがトップのコミットメントです。そして、有望でポテンシャルのある女性がリーダー層に進めるよう、一緒に手をつないで伴走していく必要があります。

女性の登用に関しては、女性だけ下駄を履かせていて特別扱いではないか、という批判もあります。ですが私は、そうは思いません。女性だけでなく、男性も子どもを産めれば良いのですが、現実問題としてそれはできません。キャリアにおいて、出産をすることがない男性は、スタート時点で下駄を履いているのです。同じスタートラインに立つという意味で、「エクイティ(公平性)」の視点で考える必要があります。

米国でも大企業では、依然として、人材採用や研修・昇進においてDEIを重視しています。表立ってその取り組みを見せると、外部からの反発を招きかねないのでアピールしていないだけです。

日本の場合は、DEIの推進を躊躇している暇はありません。こんなに急速に人口が減り、高齢化が進んでいる国はほかにないのです。他国の状況を見ている場合ではありません。

■公的部門での「クオーター制」導入に効果
■DEIと正当な評価制度が組織の競争力に
■女性スタートアップは、「おいしい投資機会」

有料会員限定コンテンツ

こちらのコンテンツをご覧いただくには

有料会員登録が必要です。

北村(宮子)佳代子(オルタナ輪番編集長)

北村(宮子)佳代子(オルタナ輪番編集長)

オルタナ輪番編集長。アヴニール・ワークス株式会社代表取締役。伊藤忠商事、IIJ、ソニー、ソニーフィナンシャルで、主としてIR・広報を経験後、独立。上場企業のアニュアルレポートや統合報告書などで数多くのトップインタビューを執筆。英国CMI認定サステナビリティ(CSR)プラクティショナー。2023年からオルタナ編集部、2024年1月からオルタナ副編集長。

執筆記事一覧
キーワード: #ジェンダー/DE&I

お気に入り登録するにはログインが必要です

ログインすると「マイページ」機能がご利用できます。気になった記事を「お気に入り」登録できます。