キーワードは「ストーリー性」:TBSが再エネ事業に踏み出した理由とは

記事のポイント


  1. TBSが気候変動対策を推進する新会社「TBS GX」を設立した
  2. 福島や栃木のソーラーシェアリングで作った電力をスタジオに供給する
  3. カギとなる「ストーリー性」と、放送局が再エネ事業に取り組む意義を聞いた

TBSホールディングスは2025年6月、気候変動対策を推進する新会社TBS Green Transformation(TBS GX)を設立した。この6月からは順次、コンテンツ制作の拠点である緑山スタジオ(横浜市)に、福島や栃木のソーラーシェアリング(営農型太陽光発電所)で作った電力の供給を始める。再エネの普及には「ストーリー性が重要」と強調する法亢順(ほうが・あや)社長に、その真意と放送局が再エネ事業に取り組む意義を聞いた。(聞き手=オルタナ副編集長・長濱慎)

TBS GXの法亢順社長(撮影:廣瀬真也)

法亢順(ほうが・あや) TBS Green Transformation 代表取締役
1996年、TBS入社。報道カメラマン、社会部記者、警視庁キャップ、社会部デスクなどを経て、2019年「Nスタ」編集長。21年からはプロデューサーとして「東日本大震災10年プロジェクト〜つなぐ、つながる〜」なども制作。25年1月TBSホールディングス・サステナビリティ創造センター長、6からTBS GX代表取締役を兼任。

◾️ソーラーシェアリングが事業の起点に

――TBS Green Transformation(以下:TBS GX)設立の経緯を教えてください。

TBSは2020年から民放各局に先駆けてSDGsキャンペーンを展開するなど、比較的早くからサステナビリティに関する情報の発信に力を入れてきました。ただし「伝えるだけで本当に責任を果たせているのか」という思いは、常にありました。

そしてSDGsという言葉が社会に浸透するにつれ、次のフェーズとしてTBSも「自分ごと」としてアクションを起こそうという議論が始まりました。

その一環として出たのが、緑山スタジオを世界に通用するサステナブル・スタジオにすることでした。同スタジオはコンテンツ制作の拠点として、国内向けはもとより、近年力を入れ始めている海外向けの作品も多く送り出しています。

さまざまな可能性を模索する中、共同出資者となるUPDATERから提案されたのが営農型太陽光発電(ソーラーシェアリング)でした。「営農型は単なる再エネではなく、耕作放棄地の活用や地域活性化、農業支援といった社会課題の解決につながる」という提案に、大きな可能性を感じたのです。

こうして2025年6月、TBSグループ全体の気候変動対策を加速させる新会社として、TBS GXを設立しました。

ソーラーシェアリングを起点としたTBS GXの事業構想。会社はTBSホールディングスとUPDATERの共同出資で設立

◾️発電そのものがコンテンツになる

――CSR活動としてではなく、会社を立ち上げて事業化するのは大きな決断だったと思います。

最初から会社設立ありきだったわけではなく、半年以上にわたって社内で議論を重ねました。事業化にあたってクリアすべき要件は二つ。一つ目が「なぜTBSが再エネ事業をやるのか」、二つ目が「それを誰がやるのか」です。

一つ目に対する答えは「発電そのものがコンテンツになる」ことでした。単に再エネで電気をつくるという事実にとどまらず、そこにある各地域・各現場の営みを物語として伝えられることに大きな可能性を感じました。

営農型の発電所は一つ一つにストーリーがあります。耕作放棄地の再生であったり、若い就農者の育成であったり、福島では原発事故からの再生であったり、それぞれの現場で行われている取り組みに、私たちは強く共感しました。

TBSは「社会を動かす起点を目指します」というブランドプロミスを掲げています。営農型の発電所は再エネを社会に広げる「起点」となる可能性を秘めており、その取り組みをコンテンツとして発信する意義はとても大きいと考えました。

もう一つの「誰がやるのか」をクリアしたのが、UPDATERとのパートナーシップです。同社は再エネ電力の調達や小売事業を行う「みんな電力」などの事業を展開しています。株主の一社にはTBSが名を連ねており、これまでも番組などを通して関係を築いてきました。

そして大事なのが、発電する農地の営農者です。UPDATERとともに、長年お付き合いしていくことになる営農者、各地の農業法人などとの関係構築を進めています。

こうしてエネルギーと食のプロと組むという道筋が見えたところで「なぜTBSがやるのか」が腹落ちし、最終的には経営陣が「やるならしっかりやろう」と背中を押してくれました。

「発電からうまれるドラマがある」をスローガンに、発電をコンテンツとして発信

◾️農業や地域が抱える課題の解決も

――6月からは、緑山スタジオへ再エネ電力の供給を始めますね。

6月からの福島、そして夏頃予定している栃木県内2ヵ所の計3カ所の営農型太陽光発電所でつくった電力を、「みんな電力」を通じて緑山スタジオに供給します。これで賄えるのはスタジオ全体の電力需要の5%程度ですが、3年以内に再エネ100%を目指します。

栃木では農薬や化学肥料、除草剤を使わない有機農法を実践しており、そこに共感した若手の就農希望者が集まってきています。福島ではソーラーパネルの下で牛の放牧を行っており、飼育動物のストレス低減に配慮したアニマルウェルフェアの取り組みとして注目を集めています。

TBS GXは、農地の上をお借りします。つまり賃料(区分地上権)や営農費用を継続的に支払うことが、農家への経済的な支援につながります。

他にも太陽光パネルが強い日差しを遮断する日傘効果によって農作物の品質が向上したり、災害時には発電所が地域の電源を担えたりするなど、さまざまなかたちで農業が抱える課題の解決に貢献できると考えています。

福島県矢吹町では、ソーラーパネルの下で牛を放牧(写真:TBS GX)

――気候変動対策や地域貢献の他に、再エネ導入のメリットをどう考えていますか。

一つはエネルギー安全保障です。輸入エネルギーに依存する構造は脆弱でリスクが大きいことが、昨今の中東情勢でも改めて明らかになりました。再エネ電力によって国内でエネルギーを自給自足できる体制を整えることは、リスク回避という意味でとても重要です。

コスト面においても、長い目で見ればメリットがあると思います。営農型太陽光発電は初期投資こそ必要ですが、運用していく中で十分にコスト回収が可能です。

◾️ 次のフェーズは再エネ機運の盛り上げ
◾️ 最大のリスクは「実態が伴わない」
◾️ 拡大のカギは「ストーリー」と「信頼性」に

有料会員限定コンテンツ

こちらのコンテンツをご覧いただくには

有料会員登録が必要です。

S.Nagahama

長濱 慎(オルタナ副編集長)

都市ガス業界のPR誌で約10年、メイン記者として活動。2022年オルタナ編集部に。環境、エネルギー、人権、SDGsなど、取材ジャンルを広げてサステナブルな社会の実現に向けた情報発信を行う。プライベートでは日本の刑事司法に関心を持ち、冤罪事件の支援活動に取り組む。

執筆記事一覧

お気に入り登録するにはログインが必要です

ログインすると「マイページ」機能がご利用できます。気になった記事を「お気に入り」登録できます。