記事のポイント
- 社会的使命を追求する「パーパス」を掲げる企業が増えている
- CSVを提唱したM.クラマー氏は「お飾りのパーパスは意味がない」と言い切る
- CSVを提唱して20年以上が経ち、企業の役割はどのように変わったのか
社会的使命を追求する「パーパス」(存在意義)を掲げる企業が増えている。パーパス経営の実現には、企業が社会課題を理解し、競争戦略の一環として行動することが重要だ。マイケル・ポーター教授とともにCSV(共通価値の創造)(※)を提唱したマーク・クラマー氏は「お飾りのパーパスでは意味がない」と言い切る。(オルタナ副編集長=吉田広子、北村佳代子)
・マーク・クラマー(Mark R. Kramer)
FSG(Foundation Strategy Group)共同創業者兼マネージング・ディレクター。1956年生まれ。2011年、米ハーバード・ビジネス・スクールのマイケル・ポーター教授とともに論文「Creating Shared Value」(経済的価値と社会的価値を同時実現する共通価値の戦略)を発表、マッキンゼー賞を受賞した。2017年から2023年7月まで、米ハーバード・ビジネス・スクールの上級講師。
※CSV(Creating Shared Value:共通価値の創造)とは、企業が社会課題の解決に取り組むことで社会的価値を創造し、その結果、経済的な価値を創造することを意味する。もともとはネスレが2005年ころから、他社と差別化するために使い始めた言葉で、ポーター教授とクラマー氏が、2011年の論文「Creating Shared Value」でCSVのコンセプトを確立し、その概念を広げた。
■「お飾りのパーパス」は意味がない
――日本では「パーパス経営」を掲げる企業が増えています。事業を通じて社会課題を解決することとパーパス経営は、どのような関係にあるでしょうか。
社会的インパクト(ソーシャルインパクト)は、「競争優位の源泉」になると考えています。それは、製品やサービスだけではなく、社内のオペレーションやバリューチェーンの活動という場合もあります。
ポーター教授は「戦略の本質は、一つのことを極端にうまくやることではない」と言うでしょう。競争戦略とは、バリューチェーンにおけるさまざまな活動が相互に補強し合い、差別化された価値を提供することなのです。
企業がパーパスを持つということは、差別化の「コア(核)」となり、全社員が「競争優位性」を理解するのに役立ちます。会社全体に浸透し、事業活動すべてに影響を与え、社会から評価されるようになるということなのです。
――パーパスを定義した後、CEOは何をすべきだと思いますか。
企業が掲げるパーパスのなかには、意味がないものもあります。企業は広報やブランディングのコンサルティング会社などに依頼し、パーパスを定義し、それをウェブサイトに掲載しますが、そのようなパーパスは無意味で、誰のためにもなりません。
もし企業が戦略の一環として、パーパスを設定しているのであれば、CEOはコミットメントを示す義務があります。
例えば、米決済大手のペイパルは、「エクイティ」(公平性)を重要視し、低所得者層へのサービスやLGBTQの権利保護などに力を入れています。人種別、男女別に報酬が公平であることを確認するための監査も行います。
同社が米ノースカロライナ州に新本社を開設することを決めた後、同州から補助金をはじめ優遇措置を受けられたにもかかわらず、「LGBT差別法」が同州で成立すると、すぐに撤退を決めました。
新本社地探しに費やした労力や多大な資金の損失を覚悟し、自分たちの原則を貫いたのです。ペイパルのCEOは、パーパスにコミットしていることを従業員に示すことがいかに重要かを語っています。
米ナイキのLGBTQに関する広告に関しても、不買運動が起きましたが、彼らは引き下がらなかった。
一方、ビールのバドワイザーを展開する米アンハイザー・ブッシュは、ゲイ・プライドへの支援を表明した後、大反対を受け、取りやめることを決めました。本気でこの問題に取り組もうとしてないことが露呈したのです。
このように、パーパスをウェブサイトに掲載するだけでは意味がありません。パーパスは、ビジネスに影響を与えるものでなければならないのです。
(この続きは)
■ビジネスの成功は社会・環境的要因に左右される
■パーパス経営で印象的な日本企業とは
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■反ESGは化石燃料産業の最後のあがき
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