記事のポイント
- AIと半導体の爆発的普及により、水は企業の競争力を左右する戦略資源に
- 水資源への投資は事業継続力を高め、新たな市場機会の創出に
- 加えて、国全体の経済安全保障を支える「未来への成長投資」にもなる
生成AIの急速な普及は、世界中でデータセンターや半導体工場への巨額投資を加速させています。同時に水を巡る競争が静かに起き始め、水はAI時代を支える貴重な戦略資源の一つになりました。水資源への投資は、コストではなく、事業継続力を高め、地域との信頼を築き、新たな市場機会の創出や持続的な企業価値向上につながる成長投資なのです。(オルタナ編集委員/サステナビリティ経営研究家=遠藤直見)

■水は「21世紀の石油」とも言える戦略資源に
政府は6月24日、戦略17分野を巡り、2040年度までに官民で総額370兆円超を投資する計画をまとめました。7月に策定される日本成長戦略や、経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)に盛り込まれます。
この中で最重点領域の一つとして位置付けられたのが、「AI・半導体」です。
半導体製造ではシリコンウエハーの洗浄に、不純物を極限まで排除した大量の「超純水」が使われます。AI向けデータセンターでも、高性能GPUやサーバーを冷却するため膨大な水が必要になります。
近年、人口増加や気候変動に加え、AIの普及と半導体産業の拡大によって水の需要は世界的に急増しています。
熊本県に進出したTSMCの工場では、高度な水循環システムを導入して水の再利用率を高め、新たな地下水取水量を抑えることで、地域の水資源への負荷を低減する仕組みが整備されています。
これは単なる環境配慮ではありません。安定した水資源を確保し、地域社会との信頼関係を維持することが、事業継続そのものに直結するのです。
かつて石油が20世紀の産業競争力を支えた戦略資源であったように、AI時代には、水もまた企業だけでなく国家の競争力を左右する戦略資源になりつつあります。
■水リスクは経営リスク: 経済安全保障にも
国連大学は2026年1月、ニューヨークの国連本部で発表した報告書において、水の過剰利用により、河川、湖沼、地下水、湿地など自然の水循環システムの多くが回復不能な状態に陥り、世界は「地球規模の水破産」の時代に入ったと警告しています。
水問題はもはや環境問題にとどまりません。工場操業の停止、サプライチェーンの寸断、地域社会との摩擦、原材料価格の高騰など、企業価値に直結する経営リスクとなっています。
水資源を安定的に確保できるかどうかは、AIや半導体といった我が国の戦略産業を支える基盤でもあります。水リスクは企業の経営リスクであると同時に、国家の経済安全保障にも直結する重要課題になっているのです。
■経済安全保障は、政府・企業・地域社会の共創から
経済安全保障というと、多くの人は、地政学リスクや政府の産業政策を思い浮かべるかもしれません。
もちろん、それらは企業にとって重要な外部環境です。しかし、経済安全保障を政府から一方的に与えられる条件とだけ捉えることは十分ではありません。
例えば、政府が半導体工場を誘致しても、企業が地域の水資源を守らず、地域社会との信頼関係を築けなければ、持続的な産業集積は実現できません。
逆に、企業が水循環への投資を進め、流域の保全や地域との共生に取り組めば、産業基盤は強化され、新たな企業や人材、投資が集まりやすくなります。その結果、地域の競争力が高まり、ひいては国家全体の経済安全保障の強化にもつながります。
このように考えると、経済安全保障とは、国際情勢や政府政策という所与の条件でも、企業活動の単なる結果でもありません。政府、企業、地域社会、投資家が、それぞれの役割を果たしながら持続的な産業基盤を築いていく共創的なプロセスです。
こうした共創のプロセスは、一度築けば終わるものではなく、社会や技術の変化に応じて不断に更新され続けます。企業は、そのプロセスに適応する存在であるだけでなく、それを形づくる主体でもあるのです。
■「ウォーターポジティブ」が新たな事業機会に
■「水関連のイノベーション」が新市場をもたらす
■水への投資が企業価値と経済安全保障をつなぐ

