■オルタナ論説委員・原田勝広の視点焦点
ミャンマーで2021年2月に軍事クーデターが発生してから3年あまりが経った。市民の平和的な抗議デモは銃の掃射など国軍の厳しい弾圧により武力闘争に発展、平和的な民主化への道は遠のくばかりだ。クーデター後、4500人の市民が国軍に殺害され、2万6000人が拘束された。避難民は230万人に及ぶ。
こうした状況の中、ジャングルに潜伏して戦い続ける映画監督コ・パウ氏が自身の逃亡生活と決意を記録したセルフ・ドキュメンタリー映画「夜明けへの道」を製作して注目されている。4月27日の映画公開を前にミャンマーのジャングルにいるパウ監督にオンラインでインタビューした。同監督は「国軍の弾圧が私に武器を取らせた」と戦う決意にいたる動機を明らかにするとともに、支援に動かない日本など国際社会の冷淡さに失望感をにじませた。
コ・パウ 1975年生まれ。ミャンマーを代表する俳優・映画監督。2007年にビデオドラマの監督でデビュー、俳優としても400本に出演した。「涙は山を流れる」(2019年)でミャンマー・アカデミー賞監督賞受賞。2021年のクーデターでは仲間の芸能人と抗議デモに参加、国軍から指名手配された。このため民主派勢力の支配地域のジャングルに潜伏して活動中。
映画「夜明けへの道」公式サイト(2024年4月27日から新宿K's cinemaほか全国順次公開)
■武器を取って戦うしか選択肢がなかった
――「夜明けへの道」には印象的な場面がいくつか出てきます。学校の関係者が「欲しいのは教科書などではない、子どもたちを守るためにミサイルが必要です」という切実な言葉が胸に響いたし、家を焼かれて慟哭する女性たちの姿も痛ましい。軍事政権の弾圧ぶり、平和を愛する人たちの悲しみを訴えるこの映画は歴史の証言であるとともに、パウ監督が民主的な革命のためにどう戦っているか、監督自身の歴史を記録した映画でもあると思います。この映画にかける思いを聞かせてください。
映画監督としてクーデター以降の出来事を記録し、残すことは重要だと考えてきた。この映画はまさにその記録映画だ。実は民主化運動によって軍事政権が終わり、「民主革命」が達成された後に公開する予定だった。
しかし、もう待っていられない。軍事政権下のミャンマーでどれだけの人権侵害があったかを世界の人々に知ってもらうためこの映画を撮った。過酷な人権侵害の実態を訴えることで民主化運動を推進し、軍事政権を終わらせたいと思った。
――パウ監督自身についてお聞きします。弾圧され、指名手配された時、海外へ避難したり、あるいは軍事政権の非道について何も語らず沈黙したりという選択肢もあった。それにもかかわらず、武器を取って最期まで戦う決意をしました。その理由は何ですか。
確かにそういう選択肢も考えられたかもしれない。でも、それでは軍事政権は何も変わらない。もともと私は平和的にデモをしただけで、武器も持っていませんでした。
しかし、国軍は弾圧し私に武器を取らせたのです。現実には私に選択肢がなかった。だから武器を手に戦う今の道を選んだのです。こうするしかなかった。
(この続きは)
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