原田勝広の視点焦点―日本で「B Corp」認証急増

岸田首相が打ち出した新資本主義構想のひとつ日本版ベネフィットコーポレーション(BC)の法制化は実現が不透明ですが、類似の構想に注目が集まっています。米国の非営利組織B Labが社会的企業に対して行っている第三者認証「B Corp」です。法人化という上からの政策ではなく、CSRからCSV、SDGs、ESGと続いて来た企業の新しいあり方を模索する現場からの突き上げを反映したもので、認証数は世界の89カ国で6295社にも及び、日本でも25社と急増しています。

■B Corp認証の歴史

一般にはなじみが薄いですが、「B Corp」はどのようにして生まれたのでしょうか。ギルバートとフラハンの両氏が1993年、バスケットシューズ、アパレルの人気企業AND 1を創設しました。社内にバスケットコートがあり、ヨガレッスンを開催。育児休暇が充実していて、利益の5%を慈善団体に寄付する社会貢献意識の高い、今で言えばCSR、SDGsの先進企業でした。

業界ナンバー2のブランドに成長しましたが、その後、トップメーカーNIKEの攻勢などで売り上げが激減、2005年に会社を売却することに。

売却自体は覚悟の上でしたが、築き上げた社会的価値が次々にはぎとられてしまいます。落胆した彼らは、もう一度やり直そうとします。新たな会社を立ち上げるのではなく、社会を変革するための制度、仕組みづくりを思いつきます。こうして2006年、非営利組織B Lab創設、翌年にB Corp認証をスタートさせたのです。

認証に当たっては、従業員、コミュニティ、環境、ガバナンス、顧客の5項目の評価指標があります。SDGsが始まる以前にできたものとしては画期的で、人権やジェンダー平等、多様性、マルチステークホルダー、情報公開、脱炭素、再生エネ、リサイクルなどもフォローしており包括的です。

200点満点で80点で合格、認証を受けられますが、一つの質問にさらに5つの選択肢がありきめ細かな積み上げ方式になっているのが特徴です。

認証を受けた企業の大半は中小企業ですが、認証を受ければそれで終わりというものではありません。自社の事業が社会や環境に与えるインパクトを計測し、パフォーマンスを改良していく努力を継続的にしていく必要があります。それだけに認証を取得していると社会的な信頼も高く、自己紹介で「B Corp認証企業です」と名乗るだけで商談がうまく行くこともあるといいます。

認証企業同士がオンライン上にグローバルなプラットフォームを築き、そのコミュニティの中で協力し合っていきます。2030年までにCO2排出のネットゼロを目指す「B Corp Climate Collective」や従業員のケアや地域貢献を推進する美容業界の認証企業が立ち上げた「B Beauty」はその成果です。

■B Corp認証、3つのメリット

日本の認証企業は25社ですが、ダノンジャパンを除けば規模の小さいスタートアップが中心で、業務内容はユニークです。2016年6月、日本で最初の認証企業となったのは絹や羽毛寝具を生産している群馬県桐生市のシルクウエーブ産業では、カーボン・ニュートラルを実現。地域貢献で知られる石井造園や、理想の通所介護を目指すフリージアも2016年の先発組です。

SDGsの目標のひとつ、フードロスに挑んでいるクラダシ。サステナブルな漁業・養殖プロジェクトを展開しているウミトパートナーズ。マーケティング業界初の認証企業、パブリックグッド。デジタルイノベーションで脱炭素化社会を目指すアークエルテクノロジーズといった具合です。

具体例として、2022年3月に認証を受けたファーメンステーションについて詳しく紹介しましょう。

ファーメンステーション社長の酒井里奈さん

社長の酒井里奈さんは銀行員時代に国際交流基金(国際交流を行う独立行政法人)に出向。社会を変えるのは市民だという時代でした。

「私はビジネスでそれをしたいと考えていた。米国に出張した際、アイスクリームのベン&ジェリーズに関心を持った。選挙に行くとアイスが無料になるとか環境負荷の低い環境で育った乳牛のミルクを使うとか、ソーシャルアクションを積極的に行っていたからです。儲けながら社会の課題を解決することができると知った」

銀行で、プロジェクトファイナンスを経験し、「これからは代替エネルギー」(太陽光、風力など再生可能エネルギーなど)が大事」という思いを強くしたそうです。そのころ、たまたま、テレビで、東京農大が生ごみをバイオ燃料にする技術を持っているのを見ました。それが起業を思いつくきっかけとなりました。

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harada_katsuhiro

原田 勝広(オルタナ論説委員)

日本経済新聞記者・編集委員として活躍。大企業の不正をスクープし、企業の社会的責任の重要性を訴えたことで日本新聞協会賞を受賞。サンパウロ特派員、ニューヨーク駐在を経て明治学院大学教授に就任。専門は国連、 ESG・SDGs論。NPO・NGO論。現在、湘南医療大学で教鞭をとる。著書は『国連機関でグローバルに生きる』など多数。執筆記事一覧

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