記事のポイント
- 「新しい資本主義」を看板の経済政策として打ち出した岸田首相
- 社会課題に取り組むスタートアップを支援する認証制度が始まる予定だ
- 英米仏では、社会起業家を支える新しい法人制度が確立されている
NISA改革だけじゃない「新しい資本主義」
新しい年を迎え資本主義について考えてみたい。「新しい資本主義」を看板の経済政策として打ち出している岸田首相は年頭の記者会見で、インフレ率を上回る賃上げの実現を図りたいと強調する一方、「リスキリングの支援や職務給の確立、成長分野への雇用の移動を三位一体で進める」と述べたのとあわせ、少子化問題に対し、異次元の対策に挑戦する意向を表明しました。
既に「資産所得倍増プラン」についてはNISA改革という具体的な施策が実施されることが決定済みです。
これらは令和4年6月に発表された「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」の「Ⅲ.新しいし資本主義に向けた計画的な重点投資」の4本柱の①人への投資と分配、に明記されているもので目新しくはありません。むしろ、残りの3つはどうなっているのか突っ込みたいところですが、②スタートアップ・オープンイノベーション推進、についてもうごきがありました。
西村経済産業相が、5年間でスタートアップの若手起業家1000人をフランスとイスラエルなどに派遣する計画を明らかにしました。また、政府は環境や福祉など社会課題に取り組むスタートアップを支援する新たな認証制度を2023年度に設けることを明らかにしました。
米国のベネフィット・コーポレーション制度を参考にしており、既存の経済の枠組みを変える新鮮な施策です。
資本主義の本家、米国では、貧困・格差の深刻化や気候変動への関心の高まりを背景に企業のパーパスが改めて問い直され、株主第一主義からステークホルダー重視へとシフトしています。このステークホルダー資本主義こそ、新しい資本主義の議論の中核ではないかと思います。
この勢いだと、③科学技術・イノベーション④脱炭素・デジタル投資にもおおいに期待が持てます。本当に日本は変わるかもしれません。
改めてグランドデザイン・実行計画を読んでみると、「Ⅳ.社会的課題を解決する経済社会システムの構築」という項にこんなくだりを見つけました。
「(企業の)短期的利益を重視する視点から、社会的価値を重視する視点への転換を図る。社会面、環境面での責任(人的資本・人権、気候変動、ダイバーシティ等)を企業が果たすことが、事業をサステナブルに維持していくためには不可欠である。金銭的リスク・リターンに加え社会面・環境面のインパクトを考えるマルチステークホルダー型企業社会を推進する」
社会課題を解決するのは誰か
これこそ新しい資本主義の中核概念でしょう。ここには6つの項目が列挙してあります。
①民間で公的役割を担う新たな法人形態・既存の法人形態の改革の検討
②競争当局のアドボカシー機能の強化
③寄付文化やベンチャー・フィランソロピーの促進など社会起業家への支援強化
④インパクト投資の推進
⑤孤独・孤立など社会的課題を解決するNPO等への支援
⑥コンセッション(PPP/PFIを含む)の強化
ここでは特に①で例示された米国のベネフィット・コーポレーションと③の社会起業家について議論してみたいと思います。
CSR(企業の社会的責任)からCSV(共通価値創造)への流れができたのは10年ほど前のことです。資本主義の行き詰まりを解決すべく、マイケル・ポーターが経済的価値と社会的価値を両立するアプローチを提唱しました。社会課題を解決することが経済的利益につながるという考え方で、慈善の押しつけのCSRにいささかうんざりしていた多くの企業の喝さいを浴びたのでした。