原田勝広の視点焦点―ベネフィットコーポレーション考

記事のポイント


  1. 岸田首相が「日本版ベネフィットコーポレーション(BC)」構想を打ち出した
  2. しかし、政府の腰が引け始めたのに加え、社会起業家の一部から消極論も出ている
  3. 米国では、7割の州で7704社のBC法人が誕生している

日本版ベネフィットコーポレーション構想が迷走

岸田首相が打ち出した新資本主義の柱のひとつ「日本版ベネフィットコーポレーション(BC)」構想が迷走気味です。BCとは、社会的営利会社(社会的利益を追求する営利会社)のこと。政府は2022年6月に新しい資本主義のグランドデザインおよび実行計画を発表、「社会が複雑化する中で孤独・孤立対策や環境に加え医療、介護、教育等の課題解決に民間の関与が期待される。欧米のBCのような新たな法制度の必要性について検討する」と明言しました。

10月には「検討会を設置し、新たな法制度の必要性について2023年6月までに結論を出したい」と極めてポジティブでした。

これに意を強くしたのがインパクト投資や社会起業家支援に力を入れてきた一般財団法人社会変革推進財団(SIIF)で、先行する諸外国の例を調査し、新制度発足に向けて提言をまとめた報告書を3月末に公表しました。

充実した内容ですが、なぜか政府が急に腰が引け始めたのに加え、当事者と目されるインパクト企業や社会起業家の一部から意外にもBC制度への消極論が出て、残念なことにこの報告書は宙に浮きかねない状況に陥っています。

が、本当にそれで良いのか。確か、日本を変えるという大きな期待を背負っての新構想の登場だったし、冷戦構造の崩壊後、安全保障に代わって脚光を浴び始めた環境、労働、人権といった経済社会問題に直面したビジネスセクターがCSRからCSV、SDGs、ESGへとたどってきた、太い潮流を考えると、BC法制度改革はひとつのメルクマールのはず。

英国、米国、フランス、イタリア、スペインなどでこの仕組みがスタートしている理由もまさにそこにあります。仮に日本がこのままスルーするとしたら、あまりにもったいない話ではないでしょうか。

興味深いSIIFの調査報告書の内容

米、英、伊、スペインのBC法制度比較

SIIFの調査報告書は興味深いものです。BCの法制度を持っている米、英、伊、スペインを比較していますが、一番参考になるのは米国でしょう(表参照)。

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harada_katsuhiro

原田 勝広(オルタナ論説委員)

日本経済新聞記者・編集委員として活躍。大企業の不正をスクープし、企業の社会的責任の重要性を訴えたことで日本新聞協会賞を受賞。サンパウロ特派員、ニューヨーク駐在を経て明治学院大学教授に就任。専門は国連、 ESG・SDGs論。NPO・NGO論。現在、湘南医療大学で教鞭をとる。著書は『国連機関でグローバルに生きる』など多数。執筆記事一覧

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