後退する民主党の気候変動政策(上)

民主党政権は地球温暖化政策を変更した。昨年12月、早期導入を目指した「地球温暖化対策税(環境税)」「再生可能エネルギー全量固定価格買い取り制度」「国内排出量取引制度」の政策“3点セット”について環境税以外の先送りを決定。民主党へ期待した国内NGOからは「後退」への批判が強まる。識者の意見を交えながら3回に分けて検証する。

■経済情勢が後退を促す

日本の税設計の中心、財務省

政府は12月28日に地球温暖化関係閣僚会議を開き、与党民主党の掲げた主要3施策への対応を協議。(1)環境税は現行の石油石炭税率に上乗せして今年10月から段階的に導入(2)「買い取り制度」は2012年度の導入を検討(3)企業間で排出枠を売買する「国内排出量取引制度」は事実上先送り――となった。

昨年3月に閣議決定された地球温暖化対策基本法案では、「20年までに1990年比で温室効果ガスを25%削減する」という目標が掲げられた。“3点セット”はその実現の手段として同法案に盛り込まれ、09年の総選挙での民主党マニフェストにも記された。

しかし情勢は変わった。負担を嫌う経済界の反対、政権基盤の弱体化、さらに国内の不況という“逆風”が吹く。また昨年のCOP16で、温暖化対策の国際体制の先行きが不透明になった。こうした情勢が方針の転換を促したようだ。

路線転換は唐突で、政府・民主党から明確な説明があったとは言えない。「国民への大きな裏切りである」と気候ネットワークなどのNGOは厳しい批判声明を発表した。

■議論の深まりによる適切な制度作りを

環境税は「11年からの導入」が目指され、“3点セット”では唯一前進したように見える。しかし、実体は既存の石油石炭税の税率を上げて「環境税」と呼び名を変えるもので、新税の導入ではない。

「一番手のつけやすい対策を行って、他はお茶を濁すのではないか」。こんな見方が識者の間で広がる。年間2400億円とされる税収の使途は現時点では決まっていない。また税の影響はガソリン1リットル当たり1円以下のわずかな上昇でしかなく、炭素抑制の効果も未知数だ。

JACSESの足立治郎氏

NGO「環境・持続社会」研究センター(JACSES)の足立治郎事務局長は効果的な環境税導入のための取り組みをしてきた。制度内容に残された課題は大きいとしつつも「画期的」と評価する。化石燃料の抑制を主な目的にした税はこれまでなかったためだ。

同時に議論の不十分さ指摘する。「税の目的、使い道、そして効果の予想などを深く考察するべきではなかったか」という。政権の人気への配慮など「政治の取引」の文脈ではなく、総合的な視点から環境税を検討するべきとの考えだ。「国会での議論で、野党には積極的・建設的提案を、与党には野党の提言を受けた環境税の制度設計のさらなる改善を期待したい」と足立氏は願う。

税は国民一人一人の負担に結びつく。その負担が温室効果ガスを減らす結果をもたらすよう、私たちは環境税の行く末を監視し続ける必要がある。(オルタナ編集部=石井孝明)2011年1月11日

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オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

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