近年、各地の自治体や金融機関が注目しているのが、特定の地域で使えるスマホ向け電子マネー「デジタル地域通貨」だ。このデジタル地域通貨のシステム開発を手がける企業のひとつがフィノバレー。同社は電子マネーのやりとりに必要なスマホアプリのプラットフォームを提供している。2017年にサービスを始めた飛騨高山地域の「さるぼぼコイン」をはじめ、他の地域でもデジタル地域通貨を誕生させている。(オルタナ編集委員=高馬卓史)

地域通貨は再びブームを巻き起こすか

成功をおさめた飛騨高山の「さるぼぼコイン」

今、再び地域通貨が注目を集めている。地域通貨は2000年前後にブームともいえるほど発行されたが、その後下火になっていた。それが、2017年頃から「デジタル地域通貨」として甦っている。

特に自治体や地域の金融機関が熱心に取り組むようになった。衰退する地方経済の振興は自治体や地域金融機関にとっては喫緊の最優先課題だ。その経済振興策としてデジタル地域通貨が注視されているのだ。

それではデジタル地域通貨とはどのようなものだろうか。岐阜県飛騨高山地域で流通している「さるぼぼコイン」を例にとってみよう。

さるぼぼコインは飛騨信用組合(岐阜県高山市)が2017年12月にリリースした地域通貨の電子化サービス。スマートフォンの中にアプリをダウンロードして、日本円をさるぼぼコインに両替・チャージして使うシンプルな仕組みだ。

地域通貨なので電子マネーを使える地域は高山市と、隣接する飛騨市、白川村に限定される。ユーザーは店舗で使用するときには、店に置いてあるQRコードをスマホアプリで読み取り、自分で金額を入力して決済する。こうすることで加盟店はQRコードを置いておくだけでコストをかけずに電子決済の仕組みを導入できる。

チャージ時に1%のポイント付与、決済手数料もなし

ビジネスモデルとしては、チャージに対するインセンティブとして、まずユーザーがチャージするときに1%ポイントが付与される。決済のタイミングでは決済手数料はとらない。また、個人間の送金でも手数料はとらない。

どこで手数料をとるかといえば、加盟店がデジタル地域通貨を日本円に換金するときに換金手数料として1.5~1.8%とる。さらに、加盟店間でさるぼぼコインのまま送金するときに0.5%の手数料をとる。

さるぼぼコインは2022年1月末現在で、ユーザー数は約2万4600、加盟店数は約1700と広がり、累計決済額は約51億円にも達する。

昨年1年間だけで6件も手がける

このさるぼぼコインのスマホアプリのプラットフォームをシステム開発したのが、フィノバレー(東京・港)だ。(さるぼぼコインを受注、開発した時点では、同社が子会社として分社化する前の親会社アイリッジでのプロジェクト)

フィノバレー社長の川田修平氏は、1975年生まれ。慶應義塾大学を卒業後、外資系コンサルティング会社などを経て、2015年アイリッジに入社。フィンテック事業推進チームを立ち上げ、さるぼぼコインなどデジタル地域通貨のプロジェクトを推進し、2018年に分社化されたフィノバレーの代表取締役社長に就任した。

フィノバレーの川田修平社長

デジタル地域通貨に取り組んだきっかけは、飛騨信用組合から声がかかったことだ。「我々自身がデジタル地域通貨を開発しようと思っていたわけではありませんが、システム構築の中で、知恵を絞りながら開発しました」(川田氏)という。

同社は昨年1年間だけでもMINAコイン(長崎県南島原市)、せたがやPay(東京・世田谷)、ぎふ旅コイン(岐阜県)、まつもとコイン(長野県松本市)、きじうまコイン(熊本県人吉市)、すいすいコイン(兵庫県神戸市)と6件も手がけて、各地のデジタル地域通貨の普及を牽引している。

金融システムとしての開発が強味

それでは同社のシステムは同業他社とどう違うのだろうか。

「そもそも他社のデジタル地域通貨と一緒だとは考えていません。大きな違いは、我々のとっかかりが金融機関だったので、金融の仕組みの中でシステム開発をしている点です。ですから、紙の商品券をデジタル化するといった単純なものではないのです」(川田氏)という。

金融機関の決済システムとして構築しているので、数十万人以上の規模にも対応可能。また、デジタル地域通貨を受け取った店舗がそれを仕入れの支払いなどに二次利用する「転々流通」ができる。さらにシステムが案件ごとに独立しているので、市役所窓口での証明書発行等の手数料支払いなどにも柔軟に対応することも可能だ。

運用面でも、「せたがやPay」では東京・世田谷区の運営事務局に同社社員を4人常駐させるなど、地域通貨として成功させるためには何が必要か、どういう開発をやっていかなければいけないのか、研究開発的な視点で取り組んでいることも他社ではまずないという。

日常生活に欠かせないツールへ

「営業は私だけなので、こちらから仕掛けていくということはできません。ですからひとつひとつ成功事例を積み上げて、その事例でお問い合わせが来るというサイクルにしなければなりませんが、さるぼぼコインなどの成功で、月に数十件もの問い合わせをいただいています」(川田氏)という。

今後の展開としては、マイナンバーによる認証で、行政の様々な申請や納税、あるいは子育て給付金などの受取りといった、いわゆる行政のDX(デジタルトランスフォーメーション)に対応した機能を付加していきたいという。

「デジタル地域通貨としての利用はきっかけであり、キラーコンテンツ。その上に幅広く使っていただける様々な機能を載せて、より進化させていきたい」と川田氏。デジタル地域通貨は単なる決済システムに留まらず、自治体を巻き込んだ、日常生活に欠かせないツールへと変貌していきそうだ。