八ッ場ダム、致死量25億人分のヒ素混入の危険性も

■ 酸性河川から排出される酸性水は東電導水管で利根川へ

吾妻川には数多くの酸性河川がある。白根山麓の万座川、今井川、赤川、遅沢川などがそれである。だから中和システムは、全部の酸性河川に作らなければ吾妻川の酸性化を防ぐことはできないはずだ。

しかし不思議なことに、中和システムが作られたのは白砂川上流の湯川のみである。他の支流酸性河川は酸性水を吾妻川に垂れ流しているのだから、吾妻川の酸性化を防げないはずではないだろうか。

それでも、八ッ場ダムの周辺工事が吾妻川を中心にどしどし進められているなかで、橋梁も鉄道も酸化によって崩壊しないのはなぜだろうか。中和システムが有効に酸化を防いでいるからではないか。

実は吾妻川の酸化を防いでいるのは、東京電力の導水管のお陰なのである。東電の導水管には白根山麓の先述の酸性河川等に大量の強酸性水が流れている。

東電は導水管に酸化を防止するエポキシ樹脂によるコ―テイングを施し、各発電所のタービンにはステインレス鋼を用いて酸性水対策とした。その上で、導水管で支流酸性河川の水を各発電所に送り発電し、その水を吾妻川には落とさずに利根川まで送っている。だから、吾妻川には酸性水が流れず、酸性水は導水管の中を流れているのだ。そういうと、読者は疑問を抱くだろう。

「東電導水管がそんな中和施設の代行をしているのならそのまま使っていれば八ッ場ダムを作ることができるじゃないか」と。ところがそうはいかないのである。

吾妻川の水は43.3%も東電に取水されているので吾妻川は涸れ川になっている。だから、八ッ場ダム堤体が出来てもダム湖には水が溜まらない。ダム完成の暁には東電は導水管の水を吾妻川に返さなければならない。

導水管の水を吾妻川に返せば、東電導水管の大量の酸性水が八ッ場ダム湖に流れ込み、八ッ場ダムは鉄が溶け、コンクリートは腐食して崩壊するのである。このことを立証する事件が2005年に発生している。

下流箱島発電所の修理の際に導水管の水を止める必要があり、導水管の水を吾妻川に流した。導水管から酸性水が流れ、利根川などの鮎が死んだ。漁協は東電に補償を求めたところ、東電は導水管の酸性水を吾妻川に流したことが原因で魚が死んだことを認めて補償金を支払った。私はこの事実を群馬県水産試験場の報告書を入手して明らかにした。

■ 災害を無視する電力会社の恐るべきダム操作を見よ

中和システムには先述のように致死量25億人分のヒ素が蓄積されている。集中豪雨と地震災害、噴火などによって酸性水が中和システムを崩壊させ、ヒ素が激流となって下流に押し寄せ、八ッ場ダムは崩壊し、下流に大災害を発生させる。

和歌山県田辺市田長付近で洪水とダム放流によって流され崖にひっかかった軽トラック

私はさらに恐るべき事実を明らかにしよう。

ヒ素は自然の状態では河川等に沈澱しているので比較的安全な状態にあるが、中和工場で投入される石灰や、ダム湖の浚渫時に固化用に用いられるセメントなどアルカリ性物質に接触すると溶解し排出されて社会的危険な存在になる。また処分場の微生物の作用でナチス製造の毒ガス=アルシンガスとなって死をもたす。中和システムとは「無害な役立たず」ならぬ「危険千万な殺人施設」なのである。

日本全国のダムはせいぜい一時間で20ミリ程度の雨に対応するようにしかできていない。しかし現在では一時間で100ミリをはるかに超える集中豪雨が日常化している。品木ダムも同じだ。集中豪雨によりダム堤体を超え溢流するとダムが破壊されるので、ダム本体を守るために、洪水中の下流に恐るべき量の放水を行う。これがダム操作規則にある「但し書き操作」である。

私が調査した新潟、奈良、和歌山でも、電力会社は下流の住民が「死者、財産喪失は、ダム放流が原因だ」と抗議しても「規則通りにやっただけだ。問題はない」と平然としている。

崖に引っ掛かった軽トラックの上流。二津野ダムから放水されている

下流の災害は洪水被害だけではない。吾妻川から利根川へ、利根川、江戸川、中川、利根大関から武蔵水路を経て荒川、見沼代用水へ。こうして吾妻川から利根川、東京湾に至るまで、死と慢性皮膚癌の蔓延をもたらす。それが中和システムである。

これから民主党野田政権によって作られる八ッ場ダムの水を飲まされる下流、首都圏のお母さんたちに問いたい。あなたの子どもや孫たちがヒ素水を毎日飲むことを承認できるだろうか。そのことを強制する野田佳彦首相や、石原慎太郎都知事など首都圏の知事たちを許すことはできない。(高杉晋吾)

 

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オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

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