誰も責任取れない「限定的再稼働」――安全優先こそ「原発震災」の教訓

関西電力大飯原発3・4号機の再稼働が強行されそうな気配だ。野田佳彦首相は30日、関西広域連合の声明を受けて「関係自治体の理解が得られつつある。最後は総理大臣である私の責任で判断する」と述べ、再稼働に強い意欲を見せた。ところが実際には同原発の「暫定的な安全判断」をめぐり関西首長の意見は食い違い、「理解を得た」と言うには程遠い。

■福井県知事は「ご都合主義」と切り捨てた

【大飯原発】免震棟の完成は早くとも3年後=関電資料から引用

関西広域連合が30日、大飯原発の再稼働について「政府の暫定的な判断であることを前提に、限定的なものとして適切な判断をされるよう強く求める」とする声明を発表したことを、各メディアは「再稼働を事実上容認」「苦渋の決断」と伝えた。

ところが、声明に「再稼働を容認する」とする文言は見当たらない。「(政府は)限定的なものとして適切な判断を」というあいまいな一文があるだけだ。

大阪市の橋下徹市長は31日、声明について「うわべばかり言っても仕方ない。事実上の容認だ」と述べ、夏場だけ再稼働すべきとするかねてからの主張を繰り返した。ところが関西広域連合内の認識は「再稼働ありきのガス抜き」(松井一郎・大阪府知事)「ぎりぎりの判断。慎重姿勢を崩したわけではない」(嘉田由紀子・滋賀県知事)などと一通りではない。そもそも橋下市長が唱える「限定的再稼働」は、大飯原発を擁する福井県の西川一誠知事が24日に「ご都合主義で話にならない」と切って捨てた代物だ。

■「限定的再稼働」は空語

東日本大震災にともなう東京電力福島第一原発事故は、安全余裕を低く見積もり多重防護を怠った末に起きた「原発震災」である疑いが極めて濃い。原子力の安全を経済や政治の都合で曲げることなく最優先とすることが、今も終息しない東電原発事故から得るべき教訓だ。

「限定的再稼働」などという表現は、原発を任意に制御できるかのような印象を与える。しかし原発が事故で暴走すれば、その結果は「限定的で暫定的」とはならない。暫定的な安全判断の上での再稼働であればなおさらだ。「私の責任で判断する」と語る野田首相の言葉は、「責任を取ることなど不可能」という東電原発事故の現実の前に空しく響く。(オルタナ編集委員=斉藤円華)2012年6月1日

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オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

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