被爆柿の木に託した生の讃歌――柿の木プロジェクト展

平和への想いがあふれた展示風景

広島と長崎に落とされた原爆。これが時を経て日本社会の中でいささか風化していくように感じられるのは、人の愚かさの常だろうか。3.11の17年前から、この史実の重みを新しい視点で問いかけてきたのが「時の蘇生・柿の木プロジェクト」。その記録展がBLD GALLERY(東京・銀座)で開催中だ。

米軍が投下した原爆の惨禍を生き抜いた長崎の1本の柿の木。この木を治療して、二世を生み出すまで回復させたのが樹木医の海老沼正幸氏。彼はこの「被爆柿の木二世」の苗木を子どもたちに「平和のシンボル」として配る活動を始めた。これを知った現代アーティスト、宮島達男氏はアートを軸にした展開を考え、1996年に「時の蘇生・柿の木プロジェクト」を設立した。

「被爆柿の木二世」の植樹を受け容れ、子どもたちと育ててくれる里親(ホスト)を広く各国から募るのがその最初のステップ。次に里親に決まった人、地域団体は植樹式とアートイベントを実施。10年後、実をつけた柿の木を祝い、アートイベントを再び実施。同実行委員会は世界各地の里親のサポートも行う。これまで22カ国、198の地域で展開され、いまも継続中。本展は記録集出版を記念しての開催だ。

宮島達男氏のトレードマークは、明滅して数字を刻むデジタルカウンターを中心としたインスタレーション。それはぜい肉を削いだシンプルな構成であるが故に、時間が持つ「生」「死」「永遠」といった根源的な問題へと見るものの思考を誘う。本プロジェクトでは、柿の木が被爆一世、二世、そしていずれは三世というかたちで世代を紡いでいくが、この時の流れに人間を含めたすべての生き物のありようが凝縮されている。そして、この柿の木が世界中の多くの人に愛され、育まれていくことは生そのものの讃歌につながる。

会場には、子どもたちの想いが込められた絵画、立体、さらにワークショップ風景の写真が所狭しと展示されている。ここに暗い影はない。しかし展示された次の子どもの詩には、広島・長崎でわれわれが学ぶべき教訓が見事に示されている。

「それでもあなたは生き残った! これはあなたの詩なのだよ」

すべては祝福され、生きるべき存在であること。会場にはこの想いが満ち満ちている。本プロジェクトは昨今隆盛のアートプロジェクトの先駆的な存在だが、アートが持つ本質的な意味をも問いかけている。(文・写真=美術・文化社会批評 アライ=ヒロユキ)

子どもたちのコラージュによる柿の木の絵
世界中からの子どもたちのメッセージ
これまでの活動を記したマップとワークショップ写真の展示風景

KAKI STORY 1995-2012 ―つながる・ひろがる柿の木の旅―
「時の蘇生・柿の木プロジェクト」『柿の木の物語』 出版記念展覧会
2012年7月27日(金)〜9月2日(日)
BLD GALLERY
東京都中央区銀座2-4-9 SPP銀座ビル8F TEL03-5524-3903

記録集『柿の木の物語』(Akio Nagasawa Publishing)は同画廊で販売。
会期中、トーク・イベントや子どもたちを対象としたワークショップを多数予定。

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オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

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