記事のポイント
- 国際司法裁判所は7月、国家や企業経営にも影響する歴史的な勧告的意見を出した
- 「気候変動に取り組まないことは人権侵害であり、倫理に反する」というものだ
- この新たな正義は、私たちに3つの希望をもたらしている
国際司法裁判所は7月23日、国家や企業経営にも影響する歴史的な勧告的意見を公表した。「気候変動に取り組まないことは人権侵害であり、倫理に反する」というものだ。この新たな正義は、私たちに3つの希望をもたらしている。(サステナブル経営アドバイザー=足立直樹)

気候正義を支える歴史的な勧告的意見を出した
(c) International Court of Justice
本当に嫌になるほどの猛暑が続き、日本記録まで更新されています。「不要不急の外出を控えるべき」と言われる日常は、もはや異常です。
そんな中、日本ではあまり大きく報じられていませんが、企業経営にも影響を与える歴史的な国際的決定がありました。
2025年7月23日、国際司法裁判所(ICJ)が、気候変動に関する勧告的意見を公表しました。これは国連総会の要請を受けて行われたもので、ICJが気候変動と国際法に関して初めて包括的な判断を示したものです。
(ご参考)ICJの勧告的意見(英文)はこちら
■ICJは私たちに3つの希望を示した
「国際司法裁判所の意見なんて、自分には関係ない」と思うかもしれません。でも、ちょっと待ってください。今回の判断は、企業にとっても、そして私たち一人ひとりの個人にとっても、実は大きな意味を持つからです。
1. 法律家が示した「世界共通の基準」
ICJは、気候変動を「人類にとっての緊急かつ存亡に関わる脅威」と明言し、すべての国家に温室効果ガス排出の抑制と適応策の実施という「法的義務」があると結論づけました。
特に重要なのは、この義務が「条約に署名した国だけでなく、すべての国に及ぶ」とされたことです。つまり、法的に整備が遅れている国や分野であっても、「気候変動に取り組まないことは人権侵害であり、倫理に反する」という国際基準が示されたのです。
これは、企業のサステナビリティ担当者にとって非常に大きな追い風です。社内で「なぜそこまでやる必要があるのか」と言われた時、今回のICJの意見は、国際法上の「共通の土台」として力強い後ろ盾になります。
2. 若者の声が世界を動かした
この意見の発端は、太平洋島嶼国出身の法律を学ぶ27人の学生たちでした。彼らは「気候変動と戦う太平洋島嶼国の学生たち(PISFCC)」というグループをつくり、国連総会に働きかけ、そして世界最高の司法機関を動かしたのです。
海面上昇で故郷を失いかけている若者たちが、国際法の力を信じて立ち上がり、歴史を変えました。小さな声が世界を動かせるという、これ以上ない証拠です。
これは、組織の中で孤軍奮闘している方にとっても、きっと励みになるはずです。
3. 日本との接点
さらに今回の意見を取りまとめたICJの所長は、日本人の岩澤雄司氏です。国際人権法を専門とし、「法の支配」を一貫して訴えてきた方です。
その声明には、声なき人びとや未来世代の権利に目を向ける強い意志が込められており、岩澤氏の思想がにじみ出たもののように感じられます。
日本発の知性が、世界のルール形成をリードした。この事実は、私たちにとって大きな誇りであり、また「次は自分たちが応える番だ」と背中を押してくれるものであるようにも感じます。

(c) International Court of Justice
■企業への気候変動対策の社会的要請はさらに強まることに
そしてもっとも重要なことは、この勧告的意見は、今後の企業経営に直接的な影響を及ぼすだろうということです。 具体的に言えば、温室効果ガス排出量の開示や削減は、いっそう強い社会的要請となるでしょう。そして、サプライチェーンでの加害責任が問われる可能性が高まります。また、投資家や取引先による倫理的評価も加速するでしょう。
もちろんこれらは、経営だけの課題ではありません。例えば、排出量データを丁寧に集めることや、調達先と対話を重ねることなど、その一つひとつが、国際社会が求める「新しい正義」を実現するための小さな一歩なのです。
近代法の原則は「他者の権利を侵害しない限りにおいて、個人の自由を追求できる」という考え方です。それを踏まえるなら、気候変動を放置することは、すでに「自由」の名を借りた加害行為になったのです。
気候変動への取り組みは、もはや当然の倫理です。そしてその倫理が、国際法で裏付けられた今こそ、私たち企業も、そして私たち一人ひとりも、行動で応える時です。ICJが世界に示した判断は、私たちの次の一歩の後押しになってくれるでしょう。
では、あなたは今どんな一歩を踏み出しますか。その一歩がきっと、未来を変える力になるはずです。
※この記事は、株式会社レスポンスアビリティのメールマガジン「サステナブル経営通信」(サス経)521(2025年8月8日発行)をオルタナ編集部にて一部編集したものです。過去の「サス経」は、こちらからもお読みいただけます。