記事のポイント
- 「ビジネスと人権」への対応は、市場競争力を高める。
- 現代奴隷は今も世界中に実存し、技能実習制度も海外から現代奴隷との指摘がある
- 企業はサプライチェーンに潜む人権リスクを積極的に見つけていかなければならない
オルタナは7月16日、サステナ経営塾第21期上期第4回を開いた。第1講には、オルタナ総研の下田屋毅・フェローが登壇し、「ビジネスと人権『サプライチェーンのリスク』」と題して講義した。講義レポートの全文は下記の通り。(オルタナ輪番編集長=北村佳代子)

下田屋氏
1.ビジネスと人権
■担当者は「世界人権宣言」の一読を
人権については、パワハラ、セクハラ、ジェンダー平等、同和問題など、いろいろな側面があるが、「ビジネスと人権」に関しては、国際的枠組みの一つである「国連ビジネスと人権に関する指導原則」をベースに進めていくことが重要だ。
企業がサステナビリティの取り組みの一環として、人権の取り組みを進めるケースも多いが、大事なのは、各社の人権の定義に、具体的に何が含まれているのかを理解することだ。
そもそも、「人間らしく生きるとは何か」。これについては国連人権委員会のエレノア・ルーズベルト初代委員長が出した「世界人権宣言」があり、企業が人権方針を策定するときにこの「世界人権宣言」を参照している例が多い。OECD多国籍企業ガイドラインなどの各種人権方針も、この「世界人権宣言」がベースとなっている。
担当者は、まずは「世界人権宣言」全30条を読んだ上で、自社の人権方針を理解し、社内外にその方針を説明できるよう進めていくと良い。非常に重要な第1条は「すべての人間は、生れながらにして自由であり、かつ、尊厳と権利とについて平等である。人間は、理性と良心とを授けられており、互いに同胞の精神をもって行動しなければならない」とある。
人権とは、「すべての人間に生まれながらにして等しく与えられた、差別なく保障される基本的な権利と自由」を指す。人権は固定されたものではなく、社会の変化や価値観の進展に応じて進化し続けるものであり、例えば世界人権宣言が出た当時には認識されていなかったLGBTQ+の権利やデジタルプライバシーも、現代においては人権の重要な構成要素となっている。
■「ビジネスと人権」対応は競争力を高める戦略的な要素も
グローバル化の進展に伴って、企業活動における人権の重要性は一層高まっている。
人権に関する積極的な取り組みは、単なる倫理的責任にとどまらない。企業のレピュテーションリスクや訴訟リスクを未然に防ぐ有効な手段でもあるし、企業が人権尊重の姿勢を示すことは、従業員のエンゲージメントやモチベーションの向上につながり、企業の市場競争力を高める戦略的な要素ともなっている。
人権侵害をどう減らしていくか、という視点だけでなく、人権をしっかり確保し誰もが本当に幸せに働くことができるよう、サプライチェーンも含めて推進していけば、企業は大きく変わる。そうしたポジティブな視点も「ビジネスと人権」にはある。
人権侵害の影響を特に受けやすいグループには、高齢者、女性、障がい者、移民労働者、先住民族、子どもと若者、宗教・民族その他のマイノリティがある。
それぞれのグループに対して、「子どもの権利とビジネス原則」「女性のエンパワメント原則」などの原則が出ており、人権デュー・ディリジェンス(以下「人権DD」)を進める上ではこれら原則を参照して進めていくと良い。
■工場の出入口を施錠した強制労働下での悲劇
■縫製産業史上、最悪の災害がバングラデシュで
■現代奴隷は今も世界中で起こっている
■知らずに、現代奴隷による魚を食べている可能性も
■技能実習制度は海外から「現代奴隷」の指摘も
■「グリーン調達」より広範なCSR/サステナビリティ調達
■説明なきSAQは実態を伴わないケースも
■人権DDの4つのステップとは
■タイに展開する企業が知っておくべき人権リスクも
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