トランプの圧力よりも株主や市民の声に反応したディズニー

記事のポイント


  1. 米ディズニー社は、先週「無期限休止」にした人気の深夜番組の放送再開を発表した
  2. 番組司会者の発言を問題視した米政権が、放送免許剥奪を示唆し、休止を決めた
  3. この動きが「言論の自由」をめぐる議論となりディズニー社への批判も相次いだ

米ABCテレビの親会社ウォルト・ディズニー社は9月22日、人気司会者ジミー・キンメル氏の深夜番組「ジミー・キンメル・ライブ!」の放送を23日から再開すると発表した。米政権がキンメル氏の発言を問題視し、ABCテレビの放送免許剝奪をほのめかした直後に、ディズニー社が番組の「無期限休止」を発表した。これが全米で言論の自由をめぐる大激論となり、親会社のディズニーへの批判が巻き起こっていた。(オルタナ輪番編集長=北村佳代子)

渦中の司会者:ジミー・キンメル氏
2022年撮影、(c) Erin Scott

事の発端は「MAGA」批判と政府の圧力

事の発端は9月15日、キンメル氏が番組のオープニングで、今月10日に暗殺された保守派活動家チャーリー・カーク氏の銃撃事件に触れたことだ。キンメル氏は、トランプ大統領の支持層「MAGA」が、この事件を政治的に利用しようとしていると発言した。

このキンメル氏の発言を問題視した連邦通信委員会(FCC)のブレンダン・カー委員長は、ポッドキャストで、ディズニー側が是正措置を取らなければ、ABC系列局の放送免許剥奪も辞さないことを示唆した。

このカー委員長の発言からわずか数時間後、ディズニー社は、同番組を「無期限」で休止するという異例の措置を取った。

全米で「言論の自由」めぐる大激論に

この一連の動きは、「政府による言論弾圧」だとして全米で大激論となった。

FCCカー委員長の発言に対しては、2024年の米大統領選で民主党副大統領候補となったミネソタ州のティム・ウォルズ知事が「北朝鮮のような手口だ」とXに投稿した。

共和党からも、テッド・クルーズ上院議員が、マフィアのボスの発言にたとえて「非常に危険」だと非難した。 オバマ元大統領は、メディアに対し、言論の自由のために立ち上がるべきだと発言した。

ディズニーに対する非難相次ぐ

ディズニー社に対しても、政府の圧力に屈したとして、批判が集中した。

エンターテイメント業界の少なくとも5つの組合が、抗議声明を発表した。その組合員数は40万人以上に上る。全米脚本家組合(WGA)はディズニーの決定を「企業の臆病さ(コーポレート・カウワーディス)」だとして、痛烈に批判した。ロサンゼルスのディズニー本社前には、数百人が抗議デモのために集まった。

ハリウッドスターたちも声を上げた。アメリカ自由人権協会(ACLU)が発表した公開書簡には、メリル・ストリープやトム・ハンクスなど400人以上の著名人が署名し、ディズニーの決定を非難した。ディズニー社の元CEOマイケル・アイズナー氏も、SNS上で批判を展開した。

さらに迅速かつ大きな動きを示したのが消費者だ。公式動画配信サービス「ディズニープラス」「Hulu」の契約解除や、ディズニーワールドのチケットキャンセルなど、ディズニー社に対する抗議行動が急速に広がった。

消費者のボイコットの動きが投資家にも伝わった。番組の無期限停止が発表された直後、ディズニーの株価は約3.5%下落し、その後も下落傾向が続き、時価総額は約40億ドル(約5900億円)、縮小した。

■キンメル氏の番組を放映しない系列局も
■政権発足後のメディアへの牽制を振り返る

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北村(宮子)佳代子(オルタナ輪番編集長)

北村(宮子)佳代子(オルタナ輪番編集長)

オルタナ輪番編集長。アヴニール・ワークス株式会社代表取締役。伊藤忠商事、IIJ、ソニー、ソニーフィナンシャルで、主としてIR・広報を経験後、独立。上場企業のアニュアルレポートや統合報告書などで数多くのトップインタビューを執筆。英国CMI認定サステナビリティ(CSR)プラクティショナー。2023年からオルタナ編集部、2024年1月からオルタナ副編集長。

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