記事のポイント
- 世界的医学誌「ランセット」が気候変動と健康に関する最新報告書を発表した
- 温暖化によって、世界の暑熱関連死は1分に1人のペースに増えた
- 同誌は、化石燃料に依存し続ければ、健全な未来は来ないと警鐘を鳴らした
世界的医学誌「ランセット」はこのほど、気候変動と健康に関する最新報告書「ランセット・カウントダウン2025」を発表した。報告書によると、世界ではすでに、気温上昇によって、1分間に1人のペースで命が奪われている。報告書は、化石燃料への依存が大気汚染や山火事、デング熱などの感染症の蔓延の要因にもつながっており、化石燃料依存が続けば健全な未来は来ないと警鐘を鳴らした。(オルタナ輪番編集長=北村佳代子)

世界的医学誌「ランセット」はこのほど、気候変動と地球環境の悪化がもたらす健康被害をまとめた年次報告書「ランセット・カウントダウン2025」を公開した。本報告書は、英ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)が主導し、世界保健機関(WHO)ならびに70以上の学術機関・国連機関から128人の専門家が作成に関わったものだ。
UCLのマリナ・ロマネロ博士は、「この報告書は、世界の隅々にまで及ぶ壊滅的な健康被害について、暗く、否定できない実態を示している。化石燃料への依存を終わらせない限り、生命と生計への破壊はさらに拡大することになる」と警告した。
■暑熱関連死は90年代から23%増に
過去4年間で、世界では平均して年19日間、生命を脅かす暑熱にさらされた。そのうち16日間は、人為的な気候変動がなければありえなかった暑さだったという。
報告書によると、暑熱に関連する死亡率は、世界人口の増加を考慮しても、1990年代以降23%増えた。2012年から2021年の10年間では、年平均で54.6万人が暑熱関連で死亡した。
分析に携わった豪シドニー大学のオリー・ジェイ教授は「これは年間を通じてほぼ毎分1人が暑熱関連で死亡している計算だ」と指摘する。「実に衝撃的な数字で、しかも、その数は増加傾向にある」(同)
なお、暑熱関連死は熱中症だけを指すのではない。循環器、呼吸器、腎・泌尿器、肥満、糖尿病など、熱中症以外にも、暑さに対処できれば助かったはずの命も含む。
高温・乾燥な環境下で森林火災の発生が助長され、森林火災の煙が引き起こす大気汚染を原因とした死者数が、2024年だけで過去最多の15.4万人に上ったとまとめた。デング熱などの病気の蔓延も、1950年代以降49%上昇した。
また高温への曝露により、2024年には過去最悪の6390億労働時間の潜在的損失が発生した。この生産性の損失は1兆90億米ドル(約158兆円)となり、後発開発途上国の国内総生産(GDP)の6%分に相当する。
■「化石燃料補助金」は気候変動対策資金を上回る
報告書はまた、化石燃料の継続的な燃焼による大気汚染が原因で、毎年250万人が死亡している、とした。
しかし、こうした健康被害にもかかわらず、各国政府が2023年に直接支出した化石燃料への補助金額は9560億ドル(約149.7兆円)に上った。
この金額は、2024年にアゼルバイジャン・バクーで開催されたCOP29(国連気候変動枠組条約第29回締約国会議)で決定した、気候変動の影響を受けやすい国々への支援として約束された年間資金目標額の3000億ドル(約47兆円)を優に上回る、とも指摘した。
専門家らは、現在のペースで化石燃料依存が続けば、健全な未来はあり得ないと断じた。
ジェイ教授は「あらゆる暑熱関連死は防ぐこともできる」と強調する。
石炭の燃焼量が減少し、クリーンエネルギーへの移行を進めたことで、石炭由来の屋外大気汚染が弱まり、2010年から2022年の間に、年間16万人の早期死亡を回避できたとの推定も示した。
再エネ発電量は世界の電力の12%にまで急伸長を遂げており、2024年には世界の医学部生の3分の2が、気候変動と健康に関する教育を受けた。
■日本の暑熱関連死者数は90年代の2.3倍に
■日本の熱波による労働損失は90年代の約2倍
■日本人は植物性食品の摂取が足りない
■日本の化石燃料への補助金も問題視
■「気候災害を回避し、命を守る解決策は存在する」

