記事のポイント
- 「EUが、ガソリン車禁止方針を撤回した」との報道が相次ぐ
- しかし、EUは「2035年のゼロエミッション化」の方針を堅持している
- 実態は、条件付きでの規制緩和で、EV化の流れがエンジン車に逆戻りするものではない
EUが12月16日、「CO2基準の改正と法人車両の提案」文書を公表したことで、「EUがガソリン車の販売禁止を撤回した」との報道が相次いだ。しかし、その中身を見てみると、EUは2035年までにゼロエミッション化を目指す方針を堅持しており、実態は、その達成に向けて条件付きで一部規制を緩和したというものだ。エンジン車に逆戻りすることはない。(オルタナ客員論説委員=財部明郎)

■EUがガソリン車販売禁止を撤回すると報道されているが…
12月16日、EUは「CO2規準の改正と法人車両の提案」という文書を公表した。これには自動車から排出されるCO2の削減目標を従来の100%から90%に引き下げることや、2035年以降も内燃機関が販売できることなどが記されている。
これを受けて日本のマスコミ各社は「EU、ガソリン車禁止方針を撤回」などとこぞって報じた。なかには、中国メーカーの低価格EVが台頭する中で、EU域内の競争力を確保する狙いだと断定的に報じる報道機関もあった。
これを受けて、「やはりEVでは無理ということにEUもようやく気が付いたか」「エンジン車を廃止することなどできるわけがない」「苦境にあえぐドイツ自動車業界の一撃でEUが方針を転換した」などと、EUを揶揄するような意見がネット上を飛び交っている。
しかし、EUが16日に発表した公表文を改めて読んでみると、確かに従来の規制案から修正はしているものの、日本の報道とはかなりニュアンスが違っていることに気付く。決してEUがEVを断念したわけでも、内燃機関に逆戻りするものでもないことがわかる。

まず、このEUが公表した文書では「柔軟性を保ちながら2035年まで進路を維持する」というスローガンが記されている。つまり2035年までの(ゼロエミッションという)進路は変えないが、その達成方法に柔軟性を持たせるというのがこの文書の趣旨だ。
ではどんな柔軟性を持たせるのかといえば、「2035年までに排気ガス排出量を90%削減する目標を設定し、残りの10%は補償メカニズムを通じて達成」するというものだ。
そもそも従来からEUは2035年以降、エンジン車の販売を禁止するとはひとことも言っていない。にもかかわらず、「するとも言っていないエンジン車禁止」を「撤回する」という日本のマスコミの言い方は変である。
EUの規制は、2035年以降に販売される車(乗用車とバン)はCO2の排出量をゼロ、すなわちゼロエミッションにしなければならない、というものである。エンジンか、モーターか、という手段の話ではなく、CO2の排出量という結果を規制しているわけだ。
ただ、CO2排出量がゼロの車両といえばEVが思い浮かぶので、エンジン車販売禁止とかEVだけしか認めないと報道する機関が多かったというわけだが、たとえエンジン車でもCO2排出量がゼロなら規制されないわけだから、正確にいうとこの報道の仕方は間違っている。
■条件付きでエンジン車でも規制に対応できるようにしたということ
今回のEUの発表で規制がどう変わるかというと、まず従来はCO2の排出量を100%削減するとしていたものを90%削減に緩和している。ただし残りの10%についてもガソリンや軽油を使ってもいいというのではなく、e-fuelやバイオ燃料を使うものだけを認めるとしている。
e-fuelやバイオ燃料は、いわゆるカーボンニュートラル燃料と呼ばれるものだ。燃料として燃やせばCO2を排出するが、その原料としてCO2が使われているから、排出されるCO2と原料として消費されたCO2が相殺されて、大気中のCO2濃度を増やさない。だからCO2を排出しないのと同じことだというのが、ここでいう補償メカニズムだ。
(このほか、EU域内で製造された低炭素製造方法で製造された鋼を使う車両も補償メカニズムとして挙げられているが、このような鋼はまだ一般的ではないから説明は省く)
実はこれ、ドイツのポルシェ社などが従前から主張していたことで、すでにEUは大筋でこれを認めていた。つまり規制緩和は織り込み済みなのだ。今回の提案でEUはこの主張を10%という制限を付けて正式に認めたということに過ぎない。
2035年以降に販売される車両は「CO2を出さないものしか一切認めない」という規制から、「CO2を出しても原料としてCO2を回収しているなら、排出しないのと同じことなので、販売を認めますよ」というのが今回のEU文書なのだ。結果的に2035年までにゼロエミッションを目指すという進路は変わってない。
ただ、従来のように削減率を100%にすると、基本的にEVかFCV(燃料電池自動車)しか選択肢がなくなる。しかし、今回の修正案のようにカーボンニュートラル燃料使用という条件が付くものの、エグゾーストノズル(排気ノズル)からCO2を出してもよいとなれば、プラグインハイブリッド車(PHEV)、レンジエクステンダー、マイルドハイブリッド車、内燃機関車でも販売が認められることになり、2035年のカーボンニューラル目標に向けてカーメーカーとしては選択肢が広がることになる(ただし、10%以内だが)。
つまり、EU文書がスローガンに掲げた「進路を維持しながら(その進路達成に向けての)柔軟性」が広がったというわけだ。
■この新提案が採択されてもエンジン車に逆戻りすることはない

