「マザーツリー」森林学者、輸入木質バイオ発電の中止訴え

記事のポイント


  1. カナダの森林研究者2名が、原生林伐採の実態を伝えるために来日した
  2. 伐採木材はバイオマス発電のペレットに加工、日本が最大の輸出先に
  3. 炭素貯蔵源である原生林を伐採し、バイオマス発電に使うのはやめるべき

カナダの森林研究者2名が、現地で進む原生林伐採の実態を伝えるために来日した。伐採木材はバイオマス発電のペレットになり、最大の輸出先が日本だ。来日した1人・スザンヌ・シマード教授は、森林には「マザーツリー」と呼ばれる古木を中心に、生態系を維持するネットワークが存在することを解明した。教授は「伐採はネットワークを破壊し、森が蓄えた炭素を放出する。気候変動対策のために輸入木質バイオ発電は中止すべき」と訴える。(オルタナ副編集長・長濱慎)

スザンヌ・シマード(写真左)

ブリティッシュコロンビア大学・森林生態学教授。植物のコミュニケーションと知性に関する研究の先駆者で、森の木々が「菌根菌ネットワーク」によって共生関係にあることを明らかにした。2021年「マザーツリー:森に隠された『知性を』めぐる冒険」を刊行。研究はジェームス・キャメロン監督の映画「アバター」に登場する「魂の木」の原案に。米タイム誌「2024年の世界で最も影響力のある100人」に選出。

レイチェル・ホルト(右)

独立系生態学者・独立コンサルタント。ブリティッシュコロンビア大学で博士号を取得。原生林の生態及びその管理に25年以上携わり、森林に関するBC州の独立系監視機関の副委員長などを務める。2020年に発表したレポート「BC州の原生林:生物多様性の最後の砦」は、同州が林業戦略を見直す契機に。BC州に対し、伐採を延期すべき原生林を特定するための専門的知識も提供する。

菌根菌ネットワークと「マザーツリー」

樹木の根には菌類の一種である菌根菌が棲息する。その菌糸が地下にネットワークを張り巡らせ木々をつなぎ、水分や窒素・炭素などの栄養分をやり取りする。そのハブとなるのが「マザーツリー」と呼ばれる古木で、樹齢1000年に及ぶ木もある。そのメカニズムは、人間の脳内やインターネットを彷彿させる。菌根菌には、樹木が光合成で取り込んだ炭素を地下に蓄える役割もある。

■「木質バイオマス=カーボンニュートラル」の嘘

2人は5月下旬に来日し、約1週間滞在した。その間、国会議員や資源エネルギー庁、林野庁との面談、三重県のFSC認証林訪問、講演などをこなし、オルタナ編集部の取材に応じた。

――スザンヌさんは40年ぶり、レイチェルさんは初めての来日だそうですね。カナダの原生林伐採や木質バイオマス発電に対する、日本の人々の反応をどう感じましたか。

スザンヌ:皆さん、とても関心を持って話を聞いてくれました。しかし「木質バイオマス発電=カーボンニュートラルな再生可能エネルギー」という誤解は依然として強く、そのために貴重な原生林が伐採されている事実も知られていない様子でした。今回の来日が、理解を深めてもらう一歩になることを願っています。

レイチェル:木質バイオマス発電は燃焼時のみならず、樹木の伐採時、ペレットの製造時、輸送時と全てのプロセスで温室効果ガスが発生します。これがカーボンニュートラルであるわけがありません。発電効率も20〜30%程度で、そのために原生林を伐って作ったペレットを、わざわざ太平洋を超えて日本に運ぶのは理にかないません。

カナダの森林伐採には、州政府などの補助金が投入されています。日本の木質バイオマス発電も、FIT制度の補助金がなければ成り立たないと聞きます。環境面でも経済面でも合理性が認められない仕組みは、やめるべきです。

BC州の原生林の「マザーツリー」。こうした木々も皆伐によってペレットの原料に(写真:Mother Tree Project)

■森林火災を受けBC州政府も危機を認識

――お2人が住む西部ブリティッシュコロンビア州(BC州)では、原生林の皆伐(区画内の樹木を全て伐採すること)が深刻です。

スザンヌ:原生林を皆伐した後は、人工林を植えます。植林すれば元通りになるから問題ないと思われがちですが、そうではありません。原生林は地球上において、海洋と並ぶ炭素貯蔵庫です。1000年単位で炭素を貯蔵してきた原生林と人工林では、蓄積できる炭素の量が違います。

BC州の原生林を調査したところ、炭素の約50%は地上の樹木に、残りの約50%は地下に蓄えられることがわかりました。地下への炭素貯蔵を担うのが、菌根菌です。皆伐はこれらの菌が棲息しネットワークを形成する「林床」(森林の地表面)にも、回復不能なダメージを与えます。

スザンヌ教授のシミュレーション。原生林が1000年単位で蓄えてきたのと同じ量の炭素を、数十年程度で育つ人工林は吸収できない(図:来日講演資料から)

スザンヌ:人工林は火災に対しても脆弱です。気候変動の影響もあり近年のカナダでは森林火災が頻発し、2023年は1800万ヘクタール以上を焼き尽くしました。同年に世界で起きた森林火災による温室効果ガス排出量の、23%をカナダ占めます。今や森林は炭素吸収源から、排出源に変わってしまったのです。

原生林は、人類が開発したいかなる炭素吸収テクノロジーよりもはるかに多くの炭素を吸収します。生物多様性の保全はもちろん気候変動対策という意味でも、皆伐を止めなければなりません。

BC州の森林の温室効果ガス排出量と除去量。1990年代以降は排出量が除去量を上回り、特に森林火災による排出が顕著に(図:来日講演資料から)

――BC州政府は、原生林の皆伐が進む状況をどう見ているのでしょうか。

レイチェル:BC州は年平均で、20万ヘクタール(東京都とほぼ同じ)の森林を伐採しています。カナダの林業はここ50年で成長し、建材用などに木材を輸出してきました。特に1990年代以降は、急増する需要に応えるため原生林の皆伐が進みました。需要を押し上げた一因が、日本や英国に輸出する木質バイオマス用ペレットです。

原生林の管理はBC州政府ですが、木材産業の強力なロビーイングが皆伐を許すような林業政策を後押ししてきました。長期的な視点で人と自然の共生を考えるのではなく、短期的な利益を優先した結果です。「カナダは自然が豊か」という一般的なイメージとは、正反対のことが起きているのです。

ただし近年は森林火災の頻発などを受け、州政府も事態の深刻さを認識し始めています。私たちは原生林が容易に再生できないことを繰り返し訴え、州大臣が「生物多様性と生態系は脅威にさらされている」というメッセージを発信するに至りました。ただし、原生林保護に向けた具体的な法整備はこれからという状況です。

スザンヌ:市民も危機感を持ち、バンクーバー近郊のフェアリークリークでは約1200名もの逮捕者を出す抗議行動が起きています。こうした市民の声も、着実に政策転換を後押しするでしょう。私たちは来日前にも、州政府に政策を見直すよう意見書を提出してきました。引き続き、粘り強い対話が必要です。

カナダの木質ペレット輸出先は日本が英国を抜いて一位に。日本への輸入量で見ると、カナダはベトナムに次いで2位(図:来日講演資料から)

(この続きは)
■木質バイオマスに必要な3つのルール
■森や海の再生には垣根を超えた連携が必要

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S.Nagahama

長濱 慎(オルタナ副編集長)

都市ガス業界のPR誌で約10年、メイン記者として活動。2022年オルタナ編集部に。環境、エネルギー、人権、SDGsなど、取材ジャンルを広げてサステナブルな社会の実現に向けた情報発信を行う。プライベートでは日本の刑事司法に関心を持ち、冤罪事件の支援活動に取り組む。

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キーワード: #生物多様性#脱炭素

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