記事のポイント
- 大分県にある牧場「宝牧舎」の山地竜馬社長は循環型畜産や家畜福祉を掲げる
- 特に乳牛のオスや障害のある黒毛和牛を殺処分から救い、牧場で飼う
- 輸入飼料は一切使わず、おから・ビールかすなど地域の食品廃棄物を飼料に
大分県で牧場を営む「宝牧舎」(本社・別府市)の山地竜馬社長は、循環型畜産や家畜福祉を前面に掲げる。特に乳牛のオスや障害のある黒毛和牛を殺処分から救い、牧場で飼育する。輸入飼料は一切使わず、おから・ビールかすなど地域の食品廃棄物を飼料にしている。循環型畜産で目指す姿を山地氏に聞いた。(オルタナ創刊編集長・森 摂)

――山地さんが掲げる「循環型畜産」とはどういうものですか。
私たちの循環型畜産には3つの意味があります。一つ目は「廃用家畜の殺処分ゼロ」です。牛には肉牛と乳牛がありますが、乳牛(ジャージー種)のオスは生後約1カ月で処分されることがあり、黒毛和牛なども病気や事故などが理由で処分されることがあります。私たちはこうした牛を引き取り、牧場で育てています。普通に飼っていれば20年くらい生きるのです。
二つ目は「荒廃農地の活用」です。最初に別府に開いた牧場は当初、荒廃農地で、ほとんどが竹山と木山でした(40ヘクタール。東京ドーム8個分)。借りた土地と隣の境界線も分からないので、GPSを使って、電気柵を立てました。
そして牛を飼い始めると、牛たちが笹を食べてくれます。すると下草が生えてくる。牛が土地を開墾してくれたのです。牛たちが糞をして、それが肥料になり、土地に微生物が増えてきました。
――そして三つめは?
「循環飼料」です。当社は利用されずに流通に出回らない規格外・未利用資源を飼料として活用しています。野菜くず、おから、米ぬか、ビールかすなどです。ビールかすは、別府と久住にある地ビール工場から分けてもらいます。おからは地元の豆腐屋さんにもらいます。
――国内の肉用牛は主に海外からの配合飼料(とうもろこしなど)が多いですね。
はい、輸入飼料は輸送時に余計なCO2も出ます。うちの牧場では当初、グラスフェッド(牧草飼育)も試みたのですが、※下記に「牧草牛」と出ているので、「牧草」に戻しませんか?牧草牛は分かりますが、「野草牛」は聞いたことが無いです。肉に草の味が出過ぎたことに加えて、牛の頭数に対して草の数量に制約があるので、一般的なグラスフェッド(牧草牛)ビーフとは異なるコンセプトで牛を育てています。
――いまはどれくらいの牛を飼っているのですか。
いま牛は50頭に増えました。概ね、和牛が約20頭と乳牛が約30頭です。和牛のほとんどは、自家産の黒毛和種で、自然交配、自然哺育、自然放牧で育てた
牛たちです。乳牛は、主に廃用になるはずであったジャージー種のオスですが、家畜市場で買い手のつかないホルスタインやブラウンスイスの他、交雑種もいます。
うちの牛たちは、牛舎飼育ではなく周年放牧で、配合飼料を使わないため、肉にサシ(脂分)が入りません。よくA5ランクなどといいますが、うちは主にC1ランクですが、ホンモノの赤身の、おいしい肉ができます。
当牧場では牛たちにワクチンは使いません。というよりも、使う必要がありません。抗生物質は治療目的かつ生命に関わる場合のみ最小限の使用にとどめます。

――畜産業には、牛のゲップに象徴される、メタンと窒素の問題もありますね。牛のゲップは、全世界の温室効果ガスの5%とも言われます。
牛のゲップだけでなく、窒素過多 も日本畜産の共通の課題です。
窒素過多の最大の要因は、穀物などの配合飼料の給与と、保肥力(土が肥料を吸着できる能力)を超える堆肥の散布にあると考えます。
「稲わらを餌にする、食べた糞を田んぼに戻す」ことを循環型畜産という向きもありますが、土壌のバランスを考えずに、耕地面積で許容できる以上の窒素を施肥してしまうと 窒素過剰となり、土壌や水質、生態系に悪影響を及ぼすことになります。
――宝牧舎のミッションは何ですか。
日本の家畜福祉を世界基準にすることです。いま日本の家畜福祉は「Gランク」とされています(世界動物協会の国別ランキング)。ただし、日本の家畜福祉が遅れているというのは欧米基準であり、欧米基準の家畜福祉は、日本ではほとんど浸透していないため、日本独自の「基準」を示す必要があると考えています。
――肉の販売はどうですか。
最近最も手ごたえを感じたのは、オーガニックEXPOでした。3日で15万円売れました。あと大分市内のトキハ(百貨店)でも5日で30万円ほど売れました。臼杵市のオーガニックマルシェでは、1日で3-5万円ほど売れます。それでも、この程度の売上では収益を確保することはできません。
一方で、こうした対面販売が後のEコマースにつながることが多いです。道の駅に置くだけでは売れません。自分たちが行って説明しないと。世の中には、家畜福祉の話が通じる人が一定数しかいないのです。
山地竜馬氏経歴: 1979年、奈良県桜井市出身。2001年甲南大学経済学部卒業。
がんこフードサービス勤務などを経て、2007年10月、鹿児島県の口永良部島(屋久島町)に移住。2008年鹿児島市のソーシャルビジネス育成事業「NPO法人ネーチャリングプロジェクト」に参画。 2010年、一般社団法人へきんこの会を設立。その後、薩摩黒島、宗像大島(福岡県)などで畜産業をしたあと、2019年に大分市に牧場を開設。主牧場は大分県竹田市久住町に置く。



