記事のポイント
- 「ぶどう山椒」は海外のシェフからも評価される和のスパイスだ
- だが、その発祥地である和歌山県有田川町は産地消滅の危機にある
- きとら農園は「+X(エックス)」をキーワードに産地の未来を守る
山椒の優良品種「ぶどう山椒」は、海外のシェフやパティシエからも評価される和のスパイスだ。だが、その発祥地・和歌山県有田川町は産地消滅の危機にある。若手農家の「きとら農園」は収入源の多様化を図り、産地の未来を守る取り組みを進める。(上野山友之)

ウナギに欠かせない調味料「山椒」。その山椒が、欧州のシェフやパティシエから注目を浴びている。中でも、大粒で香り高い品種「ぶどう山椒」は、国内でもアロマやスイーツに用いられ、多方面で活用されている。
ぶどう山椒の発祥地である和歌山県有田川町の清水地域は、標高が高く、昼夜の寒暖差が激しいなど山椒の生育に適した条件を備える全国屈指の産地だ。しかし、進む過疎化とそれだけでは食べていけないという実態から、生産者の平均年齢は80歳に達し、離農者が相次ぐなど、産地消滅が目前に迫っている。
そんな中、産地の若手農家である「きとら農園」(有田川町)の新田(しんだ)清信代表は、ぶどう山椒のブランド価値向上と他の農産物・職種を組み合わせて収益性を高め、新規就農者のモデルとなる働き方を実践している。
新田氏は清水地域出身。大学卒業後は東京で生活していたが、結婚を機にUターンを考え、移住後の仕事として、ぶどう山椒農家に着目。農地の取得や苗木の作付けなどを数年かけて進め、2011年、満を持して就農した。
しかし、その矢先に山椒の供給過多が起こり、価格が大暴落。大多数の農家のように年金暮らしではなく、家族を養う必要のある新田氏は逆境に立たされる。
■「+X」をキーワードに窮地を脱出

そこで、農閑期である秋から冬に新たな収入源「+X」を模索し、まずは冬に需要の高まる庭師の仕事を開始。続いて、山椒園に自生していた桑を活かせないかと考えた新田氏は独学で加工法を「桑の葉茶」を商品化し、大手ECサイトや道の駅で販売を始め、安定した収入源を得た。
さらに、山椒においても、自社加工での粉山椒や希少部位「花山椒」のネット直販を始めると、そのクオリティの高さから、家庭はもちろん星付きレストランからも注文が入り、山椒だけでも当初の2倍以上の収入を得ることにつながった。
新田氏は「ぶどう山椒の魅力発信が需要拡大につながり、価格が上がれば新規就農者も増える。自分がそのモデルとなり、ともに産地を守っていければ」と想いを語ってくれた。広がるぶどう山椒の可能性とともに、発祥地の未来にも注目したい。



