前回のコラムで「聴覚に障害のある方が出会う困難さの原因」をお伝えしました。今回も障害のある人が遭遇する、社会生活上の不利や困難の原因は、社会の多数派である障害のない人にとって使いやすい社会が作られていることによる、社会の偏りにあるという「障害の社会モデル」の視点から、車いす使用者が街中で遭遇する障壁について、考えていきます。(公益財団法人日本ケアフィット共育機構・サービス介助士インストラクター=冨樫正義)

例えば、エントランスに階段があるレストランに車いす使用者が一人で入店できないのは、車いすを使用していることが原因ではなく、そこに階段しかなく、歩いて階段を上がることを前提に設計されていることが原因という考えが「障害の社会モデル」です。
また、車いす使用者がスーパーマーケットなどの陳列棚の高い位置の商品が届かないのは、立って商品を取ることを前提に、陳列されているからであり、車いす使用者が、銀行のATM等に並びにくいのは、立って並ぶことを前提とした幅や角度で、パーテーションポールを設置するなどした仕組みにしているからです。
同様にATMや駅の券売機などのタッチパネルの画面が使用しにくいのは、立って操作することを前提に画面の高さや角度が設計させているからです。
■「合理的配慮」の方法は複数ある
この障害の社会モデルを踏まえた法律である「障害者差別解消法」では、事業者に対して、負担になりすぎない範囲で「合理的配慮の提供」を求めています。
ここで、配慮と聞くと思いやりや親切心で行う行為と考えがちですが、障害の社会モデルを踏まえて考えると、多数派による社会の偏りを是正するために、しなければならないことと言えます。
例えば、エントランスに段差が存在するのであれば、入店を希望する車いす使用者のために段差に携帯スロープをかけたり、4人以上の人で車いすごと持ち上げて入店のお手伝いをしたりする。
高い所に陳列された商品が届かないのであれば取って渡す。列に並んで順番を待つことが困難な際には、並んでいることとして、列から外れた所で順番を待てるようにする。
タッチパネル画面の操作が困難であれば、本人の意思を十分に確認しながらタッチパネルの操作などを代行する、などがあります。
そして合理的配慮の方法は、一つではありません。本人の申出による方法では対応が難しい場合でも、お互いに対話をすることで、違う手段で目的を達成する方法を見つけていくことが出来るかもしれません。
その方が望むことは本人に聞いてみないと分かりません。同じ車いす使用者でも出来ること、出来ないことは人様々です。
相手のニーズに即した応対が必要であり、そのためにも思い込みや先入観ではなく、丁寧に対話をすることが、多様な人が共に過ごす社会づくりにつながるのではないでしょうか。
※サービス介助士とは、主にサービス現場で障害のある人や高齢な人などが、何かお手伝いが必要な際に、さっとお手伝いができるように、基本的な介助技術を学んだ人です。誰でも取得することが出来ます。