ドイツ人の歴史観を浮き彫りにする『忘却に抵抗するドイツ』

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『忘却に抵抗するドイツ』(大月書店)(1800円+消費税)

本書は、歴史研究者であり教育者である岡裕人さんが「記憶」を軸にドイツの歴史観を明らかにしている。ナチスという過去や歴史の授業や、敵国であったポーランドやフランスとの教科書作成への取り組みなど具体例を挙げて掘り下げている。ドイツ在住22年の間に、講演会で聞いた話や、ドイツ人学生との対話など、生の体験を基にしているところに説得力がある。個々の事象が、ドイツの実情を浮き彫りにしている。

2011年夏までドイツには徴兵制があった。18歳以上の男子全員に義務付けられていたものだが、徴兵に行く代わりに福祉施設などで労働奉仕をする「良心的兵役拒否」を選択することもできた。海外で従事することも認められており、長崎市にある「岡まさはる記念長崎平和資料館」に行ったドイツの若者もいた。

同館は、日本軍の加害の歴史を扱う数少ない資料館の一つである。ドイツではナチスの親衛隊についてや、ドイツ軍や警察など自国の加害を扱う展示会は珍しくない。上述の長崎の資料館でドイツ人の若者が奉仕することは、大きな意味があるのではないだろうか。残念ながら徴兵制の撤廃とともにこのような労働奉仕も廃止となってしまった。

出稼ぎ労働者受け入れや、東西ドイツ統一など、ドイツの状況は日本とは大きく違う。しかしいまだ被害者から当事の話を聞いたり、大統領が他国で侵略について謝罪するなど、対応も大きく違う。「過去について、今生きる人に罪はないが責任を取ることはできる」というスタンスが、歴史への取り組みの土台となっている。

広島や長崎の原爆投下をはじめ、チェルノブイリや福島の原発事故など、同じ敗戦国である日本についても触れている。ドイツの過去への取り組みを知ることが、現在の日本を知る手助けになる。これまで知られていないドイツの一面を見ることができる良書である。(ドイツ・ハノーバー=田口理穂)

2012年11月7日(水)11:25

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