「企業が株主だけのために存在する時代は終わった」――アヴェダCEOドミニク・コンセイユインタビュー

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聞き手:木村 麻紀

Dominique Conseil

1956年生まれ。スウェーデン生まれのフランス人。日本ロレアル副社長を経て、2000年から現職。バイオダイナミック協会で有機農業の中でも高度な手法として知られるバイオダイナミック農法の普及に務めるという顔も持つ。

環境への負担の少ない農法で育てられた植物由来の成分をベースとしたパーソナルケア用品を世界展 開するアヴェダ。同社のドミニク・コンセイ ユCEO(最高経営責任者)に、環境や社会への貢献を含めたこれからのビジネスのあるべき姿について聞いた。

―グローバルに事業展開する企業の CEOとして、あなたの会社は何のために存在していると考えていますか。株主のためでしょうか、従業員のためでしょうか、顧客のためでしょうか、社会のた めでしょうか。

企業が株主のためだけに存在する時代は、もはや終わったと思います。国家のGDP(国内総生産)と企業の売上高を比較したラン キングでは、トップ100位のうち半数以上が企業という時代です。企業は、環境や社会に対して大きなインパクトを与える存在なのです。利益を上げるだけと いう考え方では、もう時代遅れです。

私たちアヴェダは、もちろん株主に対して責任を負っています。従業員に対して責任があるということ も、言うまでもないことでしょう。お客様に対してもそうです。アヴェダ製品を使ってくれているヘアサロンやスパ、そこで働く人々は、日々アヴェダのブラン ドをつくり出している大切な存在です。

地域社会への責任も重要です。 米国ではここ数年、企業の撤退で地域の雇用問題が深刻化していますが、私たちは米ミネソタ州ブレーンに本社を置き、これによって地域の雇用にも貢献してい ます。私たちがブランド展開している各国の地域に対しても、同じことが言えます。

原材料を生産してくれる農家がいなければ、私たちは成り 立ちません。私たちのビジネスと関わり合いのあるNGO(非政府組織)も大切です。私たちは最近行なった「ステークホルダーリサーチ」で、顧客満足度を調 査するのと同じように、関わり合いのあるNGOに対しても私たちへの要望などを調査させていただきました。

今日の企業は、多くのステーク ホルダー(利害関係者)に対して、経済・環境・社会という3つの観点から同等の責任を負っていると考えるべきなのです。

―どのステークホルダーも等しく重要だということですね。

その通りです。私たちアヴェダでは、3つのゴールを掲げています。成長(growth)、品質(quality)、そして気遣い(care)です。成長と 品質はお分かりいただけると思いますので、気遣いについてご説明しましょう。

まずは、職場における事故をなくすことです。安全な職場環境を提供するというのは、従業員に対する何よりの気遣いだと考えています。次に、従業員の定着率 を高めること。従業員にトレーニングの機会を提供して、彼らにキャリアの方向性を指し示すよう努めています。ここまでは、内部の従業員に対するケアです。

あ と一つは、外の社会に対するケアです。私たちがアースデー月間と呼んでいる毎年3月下旬から5月上旬まで、特定の商品の売り上げを各国のNGOに寄付した り、地球温暖化や生物多様性といったテーマに関して、署名を集めて政府や国連などに請願したりしています。今年は世界全体で150万ドルを寄付しました。 来年は180万ドルの寄付を目標にしています。
私たちはこの活動をとても重視しています。サスティナビリティを標榜する企業には「文化」が必要で す。文化を醸成するには、どんな形であれサスティナビリティに関与する習慣をつけることです。私は、従業員たちに単にサスティナビリティを標榜する企業に 毎日来て働くだけで満足して欲しくありません。サスティナビリティを追求することを直に経験して欲しいですし、サスティナビリティの実現に向けて個人的に 闘って欲しいとも思います。

―アヴェダでは、年間どの程度の金額を環境や社会問題に取り組むNGOに寄付していますか。その際、売り上げの1%を寄付するといった何からの基準がある のでしょうか。

特に基準は設けていませんが、売り上げのほぼ1%程度で推移しています。 昨年は70のNGOに寄付しました。個別のプロジェクトの進捗状況を把握し、常に目標金額を上げる努力をしながら支援しています。私たちも売上高の1%を 環境保護団体などに寄付する「1%フォー・ザ・プラネット」への加入を検討しましたが、結局入りませんでした。私たちは、支援するNGOとの コミュニケーションを密にし、何を達成すべきかについて自分たち自身で責任を持つべきだと考えたからです。 社会貢献の形は企業ごとに違って良いものだと思います。もちろん「1%フォー・ザ・プラネット」のメンバーは素晴らしい企業ばかりです。

―今年11月に死去した米経済学者のミルトン・フリードマンについて、企業の社会的責任(CSR)を否定するだけでなく、株主の意思にかかわらず寄付をす るのは背任行為に当たると主張している、と捉える向きがあります。このような見方についてどう思いますか。

このような考え方は40年前であれば正解だったかもしれませんが、現在の世界ではそうではないと思います。サスティナビリティに関するテーマは、今や株主 の関心そのものです。サスティナビリティに取り組む企業は、質の高い長期計画を持つことを求められます。賢明な株主は、短期的な利益だけを追求する企業よ りも、妥当性のある長期計画を持っている企業を好みます。R&D(研究開発)にどれだけ投資するつもりなのか、環境や社会問題に対してどのように 関与するつもりなのか、を見ているのです。

サスティナビリティに取り組む企業には、長期計画をベースに柔軟性を持って変化に対応すること も求められます。このような態度も株主に好まれます。財務的な利益を守るからです。

相変わらず企業の不祥事が相次ぐ中にあっては、情報開示も株主にとっての関心事です。サスティナビリティに取り組む企業にはほとんどの場合、GRI にせよCERES にせよ体系的な情報開示システムがあります。だから、株主はこのような企業を好むのです。

サスティナビリティに取り組む企業には、ビジネス革新を生む文化があります。サスティナビリティへの取り組みには、手軽に真似できる ようなお手本は1つもありません。自ら考え、時にはこれまでの慣習を打破し、 サプライチェーンや顧客コミュニケーションなどあらゆるビジネスの場面で変化を起こさなければなりません。こうしたビジネス革新は、結果として他社との差 別化につながり、付加価値を向上させ、ビジネスを成功に導きます。これはまさに株主の関心そのものです。 このように、サスティナビリティを追求すること が株主の関心であることの理由はいくつもあります。フリードマン氏の主張が正しいとしても、サスティナビリティに取り組むのは株主を満足させる良い方法だ ということに変わりはないと思います。

―アヴェダは約10年前にエスティーローダー・グループの傘下に入りました。最近でも、多国籍企業が環境に配慮したビジネスを展開する小企業を買収する動 きが続いています。大企業に買収されても一貫した価値観を持ち続けるには、どのようなことが大切なのでしょうか。

大企業が環境に配慮したビジネスを展開する小企業を買収するのは、大企業がサスティナビリティを追求する小企業の価値観を認めたことを意味するので、進歩 の兆しだと思います。

わが社の場合で言えば、買収されたことは明らかに良い影響をもたらしました。エスティーローダーは上場企業でもありますが、家族経営の価値観を大切にする 企業でもあります。ホルスト・レッケルバッカー(アヴェダ創業者)の選択は正解でした。
エスティーローダーの資金力がなければ達成できなかったこ とはいくつもあります。例えば買収される以前、私たちは業者を通じてサロンやスパに商品を販売していましたが、買収後は商品を直接サロンやスパに販売する 形に変えました。これによって顧客から直接フィードバックを得られるようになり、品質の向上につながりました。

また、日本を含めた世界 的な展開は、エスティーローダーの資金力がなければ不可能でした。グループとしてのスケールメリットを生かして、サスティナビリティを追求する上でのビジ ネス革新にかかるコストも軽減することもできました。さらに、私が2000年に社長に就任して以来、アヴェダの理念に合ったシステム作りを進める上でも、 エスティーロ―ダーには助けられました。
大企業がサスティナブル志向の小企業を買収する際、大企業は創造性や起業家精神といった小企業の持つ文化 に影響を与えるべきではありません。小企業の理念を実現させるために必要なツールを提供するサポート役に徹するべきです。小企業もパートナー選びは慎重に 進めなければなりません。

環境に配慮したビジネスを展開する小企業のオーナーは大企業に自らのビジネスを売り渡すべきでないという考え方 もあるようですが、私はそうは思いません。小さな企業が大企業を良い方向に変えていくような存在にならないと、持続可能な社会など達成できないからです。 先ほどはエスティーローダーがアヴェダにもたらした良い影響についてお話ししましたが、逆にアヴェダがエスティーローダーを良い方向に変えた事例もお話し しましょう。

わが社における容器でのリサイクル素材の使用率は、95年には25%でしたが、2000年には45%、現在では80~100%%にまで高まりました。リ サイクル素材の精製にもエネルギーを使うことにはなりますが、可能な限り天然資源の使用量を減らすというポリシーに沿った実践です。数年前、エスティー ローダーで容器開発を担当していたある男性がアヴェダに来たのですが、彼にとってアヴェダでの仕事は今までの仕事のやり方や考え方を根本的に変える経験 だったようです。彼は数年後エスティーローダーに戻って、他のブランドでのリサイクル容器の導入に貢献しました。これは、素晴らしいことです。

アヴェダはCERES原則に基づいてサスティナビリティへの取り組みについて情報公開をしていますが、エスティーローダーはこれまで どちらかと言えばコンプライアンス(法令遵守)に徹していました。しかし、彼らも近く何らかの形でサスティナビリティーリポートを作るそうです。

他 にもあります。インドでのサンダルウッド栽培がマフィアの資金源になっていることが分かり、私たちはインド産サンダルウッドの使用をやめ、新たにオースト ラリア産のものを調達することにしました。業界では始めての試みでしたが、エスティーローダーも数年前から私たちに続きオーストラリア産のサンダルウッド を調達するようになりました。エスティーローダーはアヴェダを挑戦者として賢く使っている訳です。大企業には、 環境に配慮したビジネスを展開する小企業 を、ビジネス革新に向けた挑戦者としてうまく利用する態度を身につけて欲しいと思いますね。

2006年12月15日(金)18:47

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