■統合思考経営を理解するための海外書籍
直接統合報告に言及する本ではないものの、社会と事業のサステナビリティを両立させるための海外著者の良書として、2冊ご紹介します(単純に読んで面白いのはこの2冊でしょう)。
アンドリュー・サビッツ氏の『サステナビリティ』(2008)では、なぜ企業がステークホルダーの意見を踏まえて事業活動すべきなのか、その最たる実例を挙げつつ、企業と社会のニーズがマッチする「スイートスポット」を見つけ出す手法と、実務担当者がサステナビリティ報告をするための具体的なてほどきが描かれており、グローバルな視点から事業と社会価値創造の統合という意味でのサステナビリティを把握できます。
また、ロンドンビジネススクールのリンダ・グラットン女氏の『未来企業―レジリエンスの経営とリーダーシップ』(2014)では、グローバル企業の実例に即しつつ、激変する市場環境下で生き残るために、企業が成すべきことについて述べられています。
サイロ(縦割り)的な組織運営を打破し、社外のネットワークを駆使しつつ、社内の活力を取り戻し、一見お金にならない活動に長期的な視点で投資し、レジリエンス(元に戻る力)を醸成すべきとあり、それを成し遂げる新しいタイプのリーダーと経営への期待が述べられています。まさに統合報告の目的と合致する内容と言えるのではないでしょうか。(マイケル・ポーター氏の「共有価値の創造(CSV)」についても無論参考になると思いますが、話が広がり過ぎるのでここではあえて触れません。)
以上、現状まだ多いとは言えない統合報告関連の書籍についてまとめてみました。制作実務ノウハウについてはそれほど多くありませんが、これは統合報告が画一的な制作技術で制作する質のものではないこともあるかと思います。
それぞれの企業で、統合報告の目的や意義を理解し、自社の目指す未来と、社会に創出していくべき価値とは何で、そのためにどのように体制を整備し、実施し、表現していくのか、これを議論・共有しながら自社ならではの開示を試行錯誤していく必要があるのでしょう。その旅路(journey)のお伴に、これらの本が役立てば幸いです。