企業家精神とサステナブル・イノベーションを考える――大企業に求められる、ソーシャル・イノベーションのスケールアップ

アジアでは未だに多くの企業がフィランソロピー活動に固執し、利益の一部を寄付することによって社会的責任を果たしたとしている。しかしフィランソロピー活動は企業にとって最低限の活動である。資金をもっと戦略的に活用し、より大きなインパクトを生み出すべきである。

限られた予算を戦略的に活用する方策としてはコミュニティへの投資活動があり、これはブランド・評判・信頼といった非金銭的リターンをもたらすが、環境問題や貧困問題などのグローバルレベルの問題を解決するにあたってはスケールアップ可能だとはいえない。

ソーシャルビジネス事業者は金銭的リターンを犠牲にして社会的ニーズに応えているためローカルレベルで終わりがちであり、グローバルレベルにまで成長していくケースはほとんどない。金銭的リターンを犠牲にすることなく本当のソーシャルインパクトを生まなければならないのだ。それには共有価値の創造こそが重要である。

自らの持つ資源や専門知識を活用し、コミュニティと連携し、経済的リターンを生み出す方法で社会的ニーズに取り組む企業が、ローカルレベルの成功事例を自動的にグローバルレベルにスケールアップさせていくことができるのである。

それが実現できていない現状を変えるには、貧困層を対象にしたビジネスによって利益を生み出すべきなのだ。大企業は貧困層を対象としたビジネスをすべきでないと考える人は多いが、貧困層が購入可能な金額で商品やサービスを提供することは、貧困層にとって収入をより多く手元に残しておくことにつながり、貧困を改善していくことになる。

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齊藤 紀子(企業と社会フォーラム事務局)

原子力分野の国際基準等策定機関、外資系教育機関などを経て、ソーシャル・ビジネスやCSR 活動の支援・普及啓発業務に従事したのち、現職。一橋大学大学院社会学研究科修士課程修了、千葉商科大学人間社会学部准教授。

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