持続可能性のためのイノベーティブ・マーケティング

齊藤紀子
企業と社会フォーラム(JFBS)事務局長
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持続可能性のためのイノベーティブ・マーケティング――企業と社会フォーラム(JFBS)第6回年次大会

企業と社会フォーラム(JFBS)は2016年9月8、9日、「JFBS第6回年次大会」(後援:日本マーケティング学会)を早稲田大学で開催しました。今回は、企画セッション「持続可能性とイノベーティブ・マーケティング」における報告・議論の内容をご紹介します。

本セッションでは花王、LIXIL、王子ネピアによるイノベーティブ・マーケティングの取り組み報告ののち、「マーケティングがソーシャル・チェンジを起こせるか?」というテーマで問題提起がなされました。そして、消費者に伝える上での工夫、事業化の仕組みづくりについてディスカッションが行われました。

■花王、「よきモノづくり」と「いっしょにECO」でサステナビリティを追及
 
最初に畑中晴雄氏(花王)より、環境負荷低減のための同社の取り組みが報告されました。

顔を洗うための石鹸は高価な舶来品しかなかった1890年当時に、第3者認証もついた国産高級化粧石鹸を販売したことが同社の原点となっています。社会にとって有用であるかどうかが重要とされてきた同社では、サステナビリティを追求するために2009年に環境宣言「いっしょにECO」を発表し、そののち企業理念の見直しも行って「花王ウェイ」を策定しました。

これは全従業員が消費者・顧客の立場にたって心をこめた「よきモノづくり」を行ない、世界の人々の喜びと満足のある豊かな生活文化を実現するとともに、社会のサステナビリティに貢献することをミッションとするものです。事業を通じてサステナビリティに取り組むことが世界の流れになっているという理解を共有し、消費者・顧客とともに感動を分かち合う価値ある商品とブランドの提供に努めています。

同社はグローバル社会課題の中でも「エコロジー」「コミュニティ」「カルチャー」の3つを重点領域とし、とくに「エコロジー」に力を入れて課題解決の取り組みを進めています。商品のライフサイクル全体におけるCO2排出量については約7割が消費者による商品使用と廃棄に由来するため、消費者・パートナー・社会とともに「いっしょにeco」の取り組みを進めているということです。

具体例として、界面活性剤という材料の発見・使用により泡切れがよく、洗浄力が高く、洗剤自体の量も少なくてよい衣料用洗剤「アタック」を消費者に提案していることが紹介されました。すすぎが1回で済むため節水・省エネに貢献します。

こうした節水・省エネ型商品を販売する「お客様といっしょにeco」に加え、「パートナーといっしょにeco」としてサプライヤーと協力して省資源な段ボールを使用したり、「社会といっしょにeco」として緑化活動を行うNPOの支援を行ったりしています。

使いやすさと環境配慮を両立した詰め替え用製品にも力を入れており、1991年から改良を重ね、現在では8割の商品が詰め替え用に転換されたということです。この取り組みは同社だけでなく業界全体が行っていることから、同社の取り組みが日本における普及に貢献してきたといえます。

このように衛生問題や健康づくり、高齢化など、社会が抱える課題に対して、企業理念のもとでよきモノづくりが進められているということです。

■LIXIL 、新興国向け簡易式トイレ事業で1億人の衛生状況の改善目指す

続いて小竹茜氏(LIXIL)より、新興国における衛生状態改善のための同社の取り組みが報告されました。

世界ではいまだに3人に1人が衛生的なトイレを使用できておらず、屋外での排泄や不衛生な水によって下痢性疾患で命を落とす子どもが1日に1000人もいるのが現状です。トイレがあっても地面に穴を掘ってあるだけの場合も多く、においが強く、虫が湧き、虫が食べ物などについてそれを摂取するといった形で病気に感染しています。

また夜間に屋外のトイレを使用するのは非常に危険なため、ビニール袋に排泄し明るくなってからそれを捨てる「フライングトイレ」という慣習もあります。フライングトイレやごみの集積場所に子どもがおもちゃなどを拾いに来てコレラに感染するといったことも起きています。このような、トイレがないことによる経済損失は世界で年間22兆円、リオ・オリンピックが50回もできる金額に上ると試算されています。

LIXILは2011年に5社の経営統合により誕生して以来、欧米企業も買収して世界150か国以上でビジネス展開しており、トイレに関しては世界最大規模の市場を有しています。トイレナンバーワン企業として何ができるか検討した結果、新興国向け簡易式トイレ「Safe Toilet」という商品により事業で解決していくこととなりました。

水が希少な地域においてわずか0.5Lの水で汚物を流せることに加え、便槽・浄化槽への容易な設置、2ドル以下での製造も可能なことが大きな特徴です。

ふたがあるため匂いも虫も防ぐことができ、14か国で100万台、約500万人分の衛生改善に寄与しました。人類のための発明としてホワイトハウスで賞を受けた実績もあります。2013年から開始した活動ですが2016年5月からは専任事業を立ち上げてニーズ対応を加速させています。

今後、下水設備のない地域に暮らす世界人口の約4割の人々に、衛生的なトイレを提供するナンバーワンブランドにしていきたいということです。同社単独ではそれができないため、ユニセフやJICA、NGO、ビル&メリンダ ゲイツ財団などとの協働で進めていることが紹介されました。

それまでただ臭くて不快な場所だったトイレに対するイメージを変えることによって、トイレを使う習慣の強化すなわち人々の行動変容を起こすことができます。2020年までに1億人の衛生状
況を改善することを目指していくということです。

■王子ネピア、売上の一部寄付を継続実施、5歳未満児死亡率の低下へ

田代裕貴氏(王子ネピア)からも、新興国における衛生状態改善のための同社の取り組みが報告されました。

同社は王子ホールディングスのグループ企業として、1971年より紙製品を中心に消費者の肌に直接触れる商品を扱い事業展開してきました。「皆様の暮らしにやわらかハートを」を企業理念とし、「生活品質」「環境品質」「社会品質」の3つの品質でNo.1を目指しています。

生活品質とは肌への刺激が少ない商品づくりにより顧客満足度を高めること、環境品質とはFSC(Forest Stewardship Council)の認証木材を使うことにより地球環境に配慮することを意味しています。そして社会品質とは消費者とともに取り組む社会貢献活動であり、これまでに排泄の重要性を学ぶ総合学習プログラム「うんち教室」や、コーズ・リレイテッド・マーケティング「千のトイレプロジェクト」を実施してきました。

「千のトイレプロジェクト」は、国際衛生年であった2008年、うんち教室を踏まえて次に実施する活動を模索していた際に、ユニセフによる提案を受けて東チモールでスタートしました。

東チモールでは2002年の独立後も紛争が続いてインフラが破壊され、十分な支援もなく、衛生環境の悪さから子供たちが命を落とす状況が続いていました。そこで「トイレと水の問題で失われてゆく命を守りたい」という目標のもと継続的に取り組むために、同社商品の売り上げの一部をユニセフを通して水と衛生のプログラムに寄付するコーズ・リレイテッド・マーケティングとしてプロジェクト設計がなされました。

一度の寄付がすぐさま課題解決につながるわけではなく継続することが重要であり、消費者と小売店の協力は必要不可欠であったといいます。そのため商品パッケージやウエブサイト、リーフレット、販促物、マスメディア、イベント、展示会など多様なメディアを活用して消費者向けの告知が行われました。

またトイレだけできても不十分であり、屋外排泄という生活習慣を変えてトイレ利用率を上げる必要があったため、現地の人々にトイレのメリット・必要性を伝える教育も必要不可欠であったといいます。今では屋外排泄の弊害を理解した住民自身が子どもたちにトイレ利用について教えるようになっているということです。

本プロジェクトの実施により家庭用トイレの累積建設数は1万を越え、5歳未満児死亡率、乳児死亡率ともに低下するなど成果が出てきました。しかし、いまだに5歳未満児死亡者数が出生1000人あたり50人を上回っており、衛生環境の整った国と比べると高い数値であることから、今後も本プロジェクトを続けるということです。消費者からも年間2万件程度の応援・共感メッセージがあり、理解・支援されるようになってきたことを実感しているということです。

■マーケティングでソーシャル・チェンジができるか

西尾チヅル教授(筑波大学)からは、「マーケティングでソーシャル・チェンジができるか?」という問いが示されました。2000年以降、コミュニティや環境と調和を図って収益につなげるマーケティングが展開されるようになってきていますが、果たして社会や環境に関するあらゆる課題に企業がマーケティングで対応できるのかどうか考えてみる必要があるといいます。

企業は自社がもつノウハウを活用して社会的課題に効率的・効果的に取り組むことができるが、①企業活動に起因する/関連の深い問題への対応と、②本業との関係は薄いが社会にとって重要な問題への対応は、アプローチを変えるべきであることが指摘されました。

例えば、地球環境問題の中でも企業活動に起因する課題は、エコプロダクトの開発・市場創造やマーケティング・プロセスの革新といったエコロジカル・マーケティングが有効になるといいます。一方、事業活動との関連が低い課題は、寄付つき商品の販売やコーズ・ブランディングといったコーズ・リレイテッド・マーケティングが有効だといいます。

前者のエコロジカル・マーケティングとは「顧客のニーズにあった製品の開発、販売」であり、
顧客ニーズ、環境負荷の低い商品の開発・販売、正しく消費すること、廃棄後の資源回収・再商品化まで含めた商品のライフサイクル全体で環境負荷を考慮に入れて設計すべきであること、顧客満足と社会共益と企業/組織利益の調和が求められることが指摘されました。

3.11後は15歳人口の7割弱が何らかの寄付をしたというように社会的・環境的関心は高まっていますが、かといってエコプロダクツがどんどん売れている/高くても売れるというわけではありません。

なにをもってエコ商品を選択しているのか統計調査を行ったところ、2000年代前半は「エコロジー関与」(エコに関心がある人が行為する)が重要な要因でしたが、2010年以降はエコロジー意識の高さよりも「社会規範評価(家族・友人の推奨)」(みんなが行為するから行為する)が重要な要因となっていました。この「消費者のエコロジー行動の特徴」は政策やメディアの取り上げ方にも左右されるものであり、消費者自身はよくわかっていないのです。

これはすなわち企業のソーシャル・アクションが消費者に対するメッセージになるということを意味しています。参加する仕組みがある、商品の購入によって貢献できるというストーリーをうまく作ることが重要です。

現在は家族や友人等の規範評価の影響が極めて大きいため、コミュニティの規範を利用して同調行動を促すことが有効だと考えられます。環境・社会問題への取り組みは一人ひとりの取り組みが大切なのですが、ある程度みんなが同じ方向を向いて同じ行動をとらなければ効果が出ません。

個人のメリットに結びつきにくい社会的ジレンマの問題はありますが、コミュニティの規範をもって同調行動を引き起こすことが容易なタイミングであると考えられます。マーケティングを考える上で市場の魅力が高まっていることが指摘されました。

パネルディスカッションでは、西尾教授より「消費者とともに問題解決の取り組みを進めながら商品を販売するうえで、どのように消費者に環境・社会問題を実感させ、共感を得ているのか」という問いが示されました。

各パネリストからは「非常に難しく、TVCMやキャンペーン期間を設けて小売店頭で告知をしていてもなかなか浸透しない、地道にやるしかない」「行動変容につなげるために、いかに商品を使ってもらうか腐心しており、試行錯誤中である」「商品が広がって認知されるようになると、消費者負担も受け入れていただけるようになるのでは」という回答が示されました。

またセッション参加者より「お話しいただいた取り組みはブランドや社会貢献としては成立しても、事業の柱にはなりにくい。現場の志ではじめても自立した形・仕組み作りは難しい。経営戦略上、社内ではどのように位置づけているのか」という質問がなされました。

これに対して、各パネリストからは次のような回答が示されました。小竹氏より「Safe Toiletを事業化したといっても、他事業と同じような利益率を求めてはいない。5年くらいで自走していければいい。社内で承認を得られたのは、実績、マーケットニーズ、社外からの資金、経験と実力のあるCEOのコミットメントなどが要因と思われる」。

田代氏より「収益の柱になることは想定していない。コモディティは差別化しにくいためブランディングが大切であり、ブランドエクイティを上げていくために社会貢献をしている」。畑中氏より「環境負荷低減の基準を満たさなければ新商品をつくれない。社会のサステナビリティは強い課題として認識し、社内で議論している」。

このように、消費者への伝え方や事業化の仕組みづくりについて、活発な議論が行われました。

齊藤紀子
企業と社会フォーラム(JFBS)事務局長
原子力分野の国際基準等策定機関、外資系教育機関などを経て、ソーシャル・ビジネスやCSR 活動の支援・普及啓発業務に従事したのち、現職。一橋大学大学院社会学研究科修士課程修了、千葉商科大学専任講師。

2017年3月2日(木)14:14

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