牧草地を森に還す、ユニークなブナの森づくり (2)

下刈りせずともブナの森は育つ

気候が温暖で、夏に雨が多いわが国では、植物が生育しやすい環境だ。地拵えをした後の植栽地は日当たりもいいため、あっという間に雑草や灌木が生い茂り、植樹した苗木を被圧する。雑草に覆われた苗木は日の光を奪われる。さらに、風通しも悪くなり湿度が高くなるため蒸れて病害を起こしやすくなる。そこで日本の林業では下草刈りという作業が不可欠になる。夏のいちばん暑い時期に行う作業なので、林業の作業の中でも過酷な部類に入る。カヤの平高原牧場のブナの森づくりでは、このいちばん労力を要する下草刈りが不要だ。

前々回のコラム(木を植えただけでは森はつくれない:草刈りの重要性)では、下草刈りの必要性を訴えたが、カヤの平高原牧場のブナの森づくりに関してはあてはまらない。これにはブナという樹種の性質が大きくかかわっている。一般的に樹木は春から夏にかけて成長するが、季節を通じて少しずつ成長していくものと、春先に一気に成長するものがある。

ブナは後者で春になると他の植物に先駆けて葉を開き、豊富な雪解け水を吸収して一気に成長してしまう。また、樹木には日向を好む陽樹と、比較的暗い所を好む陰樹があるが、ブナは代表的な陰樹の一つ。森の中の木漏れ日が差すような環境を好む。したがって夏になって周囲の雑草類が伸び始め、日陰になってもさほど困らない。さらに、ブナは水分が大好き。乾燥した環境よりも湿り気のある環境を好む。雑草の中はむしろブナにとって居心地のいい環境といえる。カヤの平高原牧場のブナの森づくりは植えっぱなしでOK。労力が必要な下草刈り不要のユニークな森づくりだ。

ブナ稚樹の掘り採り作業(長野県下高井郡木島平村)

自然が森をつくる過程をほんの少しお手伝い

フリーランスのコピーライター。「緑の雇用担い手対策事業」の広報宣伝活動に携わり、広報誌Midori Pressを編集。全国の林業地を巡り、森で働く人を取材するうちに森林や林業に関心を抱き、2009年よりNPO法人 森のライフスタイル研究所の活動に2018年3月まで参画。森づくりツアーやツリークライミング体験会等の企画運営を担当。森林、林業と都会に住む若者の窓口づくりを行ってきた。TCJベーシッククライマー。

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