統合報告が目指すべき、真の統合(前編)

それだけ、資本主義経済や財務価値は世界の存続にとって大きな影響力があるということです。

従って世界のサステナビリティのためには、影響力が絶大である資本主義経済そのものを変革していく、あるいは産業・経済界を巻き込んでいかなくてはなりません。

一方で資本主義経済側としても、ITの進化やNGO活動の広がり、社会・環境課題の世界での共有や法制化の進展、学術研究の進化などによって、事業活動自体が環境や人権などの持続可能性に配慮しなくては、評判の悪化や法令違反、従業員の生産性低下など、利潤や企業価値の棄損につながるという認識が共有されてきたために、抜き差しならない事態になってきているという訳です。

ある企業や投資家、ある指針がESGを語るとき、後者(市場原理にとってのESG)の目線だけでなく、前者(世界の持続性や一人一人の幸福にとっての市場原理)の観点がしっかりと踏まえられているでしょうか。その部分が抜け落ちていたら、恐らくそれは本当の意味での「統合」や「価値創造」にはならないと思います。

財務価値を重視するのは言うまでもなく重要です。財務と非財務を統合しようという動きも望ましいことです。ただ、そもそも何のために財務価値や非財務価値、その統合を重視するのかを考える必要があるのではないでしょうか。

■お金にならなければ、ほうっておけばいいのか

例えば、投資家のESG視点からすると、短期的な問題や財務価値に結び付きやすい社会や環境活動や開示が評価されやすいことになりますが、そもそも財務価値化が難しく、長期的、複合的に責任があいまいになりやすい課題領域こそが最も深刻なのであり、その部分への感性を失ってしまっては、また同じことの繰り返しになりかねません。

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中畑 陽一(オルタナ総研フェロー)

静岡県立大学国際関係学部在学時、イギリス留学で地域性・日常性の重要性に気づき、卒業後地元の飛騨高山でタウン誌編集や地域活性化活動等に従事。その後、デジタルハリウッド大学院に通う傍らNPO法人BeGood Cafeやgreenz.jpなどの活動に関わり、資本主義経済の課題を認識。上場企業向け情報開示支援専門の宝印刷株式会社でIR及びCSRディレクターを務め関東・東海地方中心に約70の企業の情報開示支援を行う。その後、中京地区での企業の価値創造の記録としての社史編集業務を経て、現在は太平洋工業株式会社経営企画部にてサステナビリティ経営を推進。中部SDGs推進センター・シニアプロデューサー。

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