反同性愛大国ロシアで撮影したLGBTQ映画「ライカ」

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映画「ライカ」は、全編ロシアロケを敢行したにもかかわらず、同性愛を取り扱った作品ゆえに、ロシア国内での上映が禁止されたという、いわくつきの映画だ。本編は、女性同士の恋愛物語という陳腐な言葉で片付けるには相応しくない、「人間の孤独と依存」をポップな映像で描き出している。今のロシアの若者たちの生き様が、手に取るように感じとれる映像は、現地の文化を知る上でも非常に興味深い。日本公開を記念して、主演のクセーニヤ・アリストラートワさんがこのほど来日した。ダブル主演である宮島沙絵さんとともに、オルタナの取材に応じた。(寺町幸枝)

■撮影現場はまるで日本

ユーリャ役のクセーニヤ・アリストラートワさん

この作品を通じて、初めて映画出演したというアリストラートワさん。現地では、自国にも関わらずほとんどのクルーが日本人という環境だったという。日本人が描くロシアという撮影環境で、ロシア流とどんな違いを感じたのだろうか。

「ライカの撮影は、とにかく撮影量が多かった。ロシアでは1日1シーンということもあるほどのんびりしている。しかし、撮影スタッフとキャストの関係は、ロシアは非常にビジネスライクだが、ライカのクルーはとても友好的だった」(アリストラートワさん)

一方、ロシアという異国でロシア語を話す日本人という難しい役を演じた宮島さんは、外国ロケということでの緊張や疎外感を感じることはなかったのだろうか。

宮島さんは「日本人クルーの中での撮影だったので、ロシアに行っていたのにとても楽に撮影ができた。アウェー感は感じなかった。むしろクセーニヤの方が、自国にいるのに疎外感を感じたのではないか」と話す。

■映画で描かれた、リアルなロシアでの生活感

主人公の二人が住んでいるのは、キッチン、バス、トイレが共同になっている古いアパートだ。主人公のライカとユーリャが小さなバスタブに体を埋めて風呂に入るシーンや、隣の部屋の住民が、ユーリャが作る朝食のつまみ食いをするといった生活感溢れるシーンの数々は、今のロシアの若者たちの生活と照らしあわせて、どのくらいリアル感があるのだろうか。

「まさに学生や、若い人たちの生活感そのまま。『コムナルカ』と呼ばれる共同住宅での生活は、この映画に描かれた世界そのものだ。ただし、最近コムナルカは少しずつ改装され減っている」とアリストラートワさん。

「撮影で使った住居は、とりわけ古い建物だった」と宮島さんは指摘していたが、撮影当時大学在学中だったアリストラートワさん曰く、学生寮は同性3、4人で一部屋をシェアし、バス・トイレ・キッチンを共有するコムナルカ的生活が今も主流だという。日本ではバス・トイレ付個室の学生寮ばかりなのに比べると、対極的に感じる。

■アンチ同性愛大国で作られた映画の宿命

ライカ役の宮島沙絵さん

ライカは、LGBTQを取り扱う作品の中でも比較的ラブシーンがあっさりしている作品ではないだろうか。監督の今関あきよし氏は、映画公開に際して「同性愛を超えるような強く依存しあう関係」や「誰かを強く思い続けることでしか生きていけない人間の弱さ」を描いてみたかったと発言している。その思いを背負った主演女優は、実際どんな思いでこの作品に挑んだのだろうか。

アリストラートワさんは「私の演じたユーリャは独立心が強く、冷静な女性。撮影前は音楽をたくさん聞いて、ユーリャにとって何が一番大切なものなのかについて色々と考えた。自分はストレートなので、レスビアンのカップルについてはサイトや写真などで勉強し、自分がどう立ち振る舞うべきかを学んだ」という。

ところで、アンチ同性愛大国として知られるロシアでの撮影はスムーズだったのだろうか。

「日本より街中で、男女のカップルが抱き合ったりキスをしたり、腕を組んで歩くのが普通の環境で、女性同士が肩を組んで歩くといったことで、特に冷たい視線を感じたことはなかった」と宮島さん。撮影中にトラブルに見舞われるようなこともなかったようだ。

一方で、未成年者に「非伝統的な性的関係」に関する情報提供を禁止する「同性愛宣伝禁止法」を2013年に制定したロシアにおいて、この作品が上映禁止になったという事実は動かせない。このようなテーマの映画に出演すること自体に、ためらいはなかったのだろうか。

「この映画のオーディションの話を聞いた時、迷うことなく是非受けたいと思った。女優として、ライカの物語も、そして撮影条件や環境も含めて、全てにとても興味を持った。もともとユーリャとして想定されていた役の年齢よりも自分は若かったが、トライする価値はあると思った」と言う。アリストラートワさんの言葉には、まさに当たり役という直感が、オーディションを受ける時点で感じていたことを物語っている。

そんな思いが募った初主演作品を、自国で公開できないアリストラートワさんは、「どうしてこの作品を公開できないのかわからない、非常に残念だ」と語る。また「日本人が描いたロシアを、ぜひロシアの人に見てもらいたかった」と宮島さんは残念がった。

そうしたことを踏まえると、改めてこの作品を通じて、ロシアという国が抱える非多様性や、複雑な現実を感じることができる。自由奔放な若者のリアルなロシアでの生活を映し出した一方で、法律や表現の自由に大きな制限がある現実。この事実が、今のロシアというものを映し出しているのかもしれない。

東京、大阪での「ライカ」の上映は終了したが、国内外で順次拡大上映が予定されている。

◆映画「ライカ

◆クセーニヤ・アリストラートワ(ユーリャ)
1992年12月12日、ロシア、クルスク生まれ。2014年にロシア国立舞台芸術大学に入学しミハイル・ボリソフ氏に師事。卒業後は公演の舞台に立ちながら映画の仕事も積極的に行っている。大学在学中に本作のオーディションを突破し主役の一人であるユーリャ役を射止めた。

◆宮島沙絵(ライカ)

1994年、東京都出身。舞台女優として『転人』劇団メイカーズプロデュース(15年)、『五右衛門烈風伝 ~100万両の金魚~』THIRD PLACE(15年)、『あのコがエロいのはボクのせいだ』T.M. DELUX COMPANY(15年)などの舞台に立つ。今回オーディションでライカ役を射止め、本作で映画デビューを飾り、第12回ロサンゼルス日本映画祭で最優秀新人賞を受賞した。

2018年3月14日(水)15:40

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