地球温暖化が脅かす漁業

人と魚の明日の未来のために

「球温暖化が今のペースで進むと、その影響で世界の漁業が被る損害額は年間100億㌦に達する可能性がある」-。

昨年12月、カナダ・ブリティッシュコロンビア大のウィリアム・チェン准教授は、都内で開かれたシンポジウムで、コンピューターシミュレーションの結果を発表した。

チェン准教授によると、大気中の二酸化炭素濃度の上昇は海水温の上昇や海洋の酸性化、酸素レベルの減少などを通じて漁獲量の減少を招く。70種を超える主要な魚種について、各国の漁獲量などのデータを基に行った解析で、漁業が被る損害額は最大年100億㌦に達するというのがその結論だった。

温暖化による漁獲への影響は熱帯域で大きい。中緯度から高緯度の海には、温暖化による海水温度の上昇などに伴って、熱帯域の魚が移動してくるために、魚種などは変わっても、漁獲量自体の減少は限られたものにとどまる。

これに対して、温暖化が進んだ熱帯域の海には、他から移動してくる魚が少ないために、漁獲量の減少が著しいというのがその理由だ。

熱帯域の発展途上国や南太平洋の島国などでは多くの人々が漁業に依存している。チェン准教授は「温暖化が漁業資源に与える影響はこれらの国への経済への打撃となり食糧、栄養問題の深刻化などが懸念される」と指摘する。

解析によると、世界の平均気温が1度高くなるごとに、世界の魚の漁獲量は約340万㌧減る。チェン准教授は「温室効果ガスの排出量を大幅に減らし『産業革命以来の気温上昇を1.5度にすることを目指す』というパリ協定の目標を達成することは世界の漁業に大きな利益をもたらす」と指摘した。

※この続きは、オルタナ52号(全国書店で発売中)掲載の「人と魚の明日のために」でご覧ください。

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井田 徹治(共同通信社編集委員兼論説委員/オルタナ論説委員)

記者(共同通信社)。1959年、東京生まれ。東京 大学文学部卒。現在、共同通信社編集委員兼論説委員。環境と開発、エネルギーな どの問題を長く取材。著書に『ウナギ 地球 環境を語る魚』(岩波新書)など。2020年8月からオルタナ論説委員。

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