商業捕鯨の商業的可能性は?(坂本 優)

鯨肉は「学校給食で多用されてきた」ということもよく聞く。私は昭和35年から44年まで小中学校で学校給食を食べてきたが、当時でも給食のメニューで鯨料理を頻繁に食べたという記憶はない。「学校給食で多用」という話を聞いた当初は、自分たちは食べていなくとも、おそらく地域によっては学校給食で多用されているのだろうと思った。

これについては「記憶」といったあいまいなデータでなくとも、おそらく全国各地に学校給食のメニュー表や原材料の仕入れ資料などが残されているだろう。そういったデータから学校給食での使用実態や今後のニーズを客観的に検証することも必要ではないか。

鯨肉は「偽牛缶」事件のような偽装表示の食材となることもあった。そのような使われ方もあった、というのは鯨がかつては大量に捕獲され安く手に入る肉だったからでもある。

昭和30年代など、日本は当時のソ連やノルウェーなどと、南氷洋中心に鯨の捕獲頭数を競った。一時期、これら各国はシロナガスクジラ換算で千頭単位の鯨を捕獲し、その競争は「捕鯨オリンピック」とも称された。

シロナガスクジラは、体長30メートル、体重180トンにもなるといわれる地球上で最も巨大な動物だ。当時捕獲量でトップを争っていた日本には毎年大量の鯨肉がもたらされた。

商業捕鯨再開で我が国が計画している主な捕獲対象であるミンククジラは、成獣で体長7メートル内外、体重は7~8トンといわれる。仮に300頭のミンククジラを捕獲したとして、その重量は個体差を考慮してもシロナガスクジラ15頭前後だろう。捕鯨を再開したからといって、かつてのような安い鯨肉が市場に供給されるということではない。

私は、和歌山県太地町におけるイルカ追込み漁など、地域の伝統的な捕鯨について反対するものでは決してない。ただ、新たに再開される「商業捕鯨」については、適切な資源管理とともに、商業的な合理性、採算性を踏まえて実施・検証されることを切望する。

そのことは国際社会に対して、商業捕鯨再開の我が国としての正当性を主張していくうえでも欠かせないことと考える。

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坂本 優(生きものコラムニスト/環境NGO代表)

1953年生。東京大学卒業後、味の素株式会社入社。法務・総務業務を中心に担当。カルピス株式会社(現アサヒ飲料株式会社)出向、転籍を経て、同社のアサヒグループ入り以降、同グループ各社で、法務・コンプライアンス業務等を担当。2018年12月65歳をもって退職。大学時代「動物の科学研究会」に参加。味の素在籍時、現「味の素バードサンクチュアリ」を開設する等、生きものを通した環境問題にも通じる。(2011年以降、バルディーズ研究会議長。趣味ラグビー シニアラグビーチーム「不惑倶楽部」の黄色パンツ (数え歳70代チーム)にて現役続行中)

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