映画評:「ビッグ・リトル・ファーム」が問う農業

3月14日に公開される「ビッグ・リトル・ファーム 理想の暮らしのつくり方」(配給:シンカ、監督:ジョン・チェスター)は、農薬を使用しない伝統農法をもとにした農場を作る姿を追った米国のドキュメンタリー映画だ。経済優先のためにバランスの崩れかけた生態系を健全に戻すには、人は何ができるのか。土壌作りから始めた農場では植物や家畜、野生動物から次々と問題を突きつけられる。だが、生態系の調和するにつれて美しく感動的な姿を見せてくれ、時間をかけて努力すれば「まだ間に合う」ことを教えてくれる。(松島 香織)

「ビッグ・リトル・ファーム 理想の暮らしのつくり方」 (c) 2018 FarmLore Films, LLC

本作の監督を務めたジョン・チェスターと妻で料理家のモリーは、自然由来の健康的な伝統料理に共感して、多様な生物が集まる循環型の農場を作りたいと考えていた。牛や羊、鶏など様々な生き物がのびのびと動き回り、アプリコット、桃、プラムなどの果樹が曲線の畝を作る「アプリコット・レーン農場」は、200種類もの農産物を育てている。特に卵は人気で50パックが1時間ほどで売り切れてしまう。

生態系が調和した「アプリコット・レーン農場」 (c) 2018 FarmLore Films, LLC

妊娠中に農場にやって来た豚のエマは、通常より多くの子どもを産んで感染症にかかってしまい、ジョンは付きっきりで看病する。そこへ仲間はずれにされていた鶏のグリーシーがやって来るが、エマは追い払ったりはしない。受け入れられたグリーシーが、堂々とエマの背に立っている姿がほほ笑ましい。

その頃家畜を狙ってコヨーテが現れるようになり、ジョンは射殺するが、守るべき家畜の命と野生動物のコヨーテの命に違いがあるのか、思い悩むようになる。そんな時に番犬のカヤはグリーシーをかみ殺してしまった。赤い血の付いた白い番犬の姿はショッキングで、生命とは何なのかを考えさせられる。

農薬を使用せず、コヨーテを駆除した農場には、カタツムリ、アブラムシ、ホリネズミなどの害虫や害獣が土地や果物を荒らし、大きな被害が出る。水辺には干ばつで不要な藻類が繁茂し、水鳥を移動させなくてはいけなくなった。

うまくいかない時期が続くが、水辺を飛び出したカモがカタツムリを食べ、アブラムシの天敵であるテントウムシが現れる。更にはタカが果実を食べ荒らす鳥やアナグマを追い払うようになり、ジョンはコヨーテでさえ、ホリネズミの繁殖を抑える生態系の一部だったことに気づく。

自然環境が整い多くの野生生物がやって来たことが農場のニーズと一致して、農場は徐々に軌道にのっていく。健全な生態系のサイクルが回り出した農場は、美しい姿を見せる。羽化したオレンジ色の蝶、たわわに実った果実、けがれのない動物の瞳。その映像美は感動的だ。

「まだ間に合う」。こうした農業の取り組みがひとつの希望となり、自然と人間が共存できることを教えてくれた。

3月14日から、シネスイッチ銀座、新宿ピカデリー、YEBISU GARDEN CINEMAほか、全国順次公開。

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オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

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