編集長コラム) 「PR=広報」も誤訳、双方向の関係性が重要

オルタナ9月号(通巻30号)では「コンブライアンス=法令順守は誤訳」というインタビュー記事を載せました。

単に法令を順守するのではなく、消費者や取引先、地域と対話することがコンプライアンスの真髄なのです。

日本にはもう一つ、不幸にも広まってしまった誤訳があります。それは「PR=広報」です。PRとはパブリック・リレーション。つまり、社会との関係性を築くことなのです。広報(情報発信)だけでは一方通行でしかなく、双方向性が重要なのです。

いまの日本企業は、本当の意味でのコンプライアンスもPRも得意ではないように見えます。

「広報部の主な仕事は情報発信」と考えておられる関係者が意外に多いのではないでしょうか。

マーケティングや商品開発の関連部署にとって最大の仕事は「市場の声を聞くこと」です。同様に、広報やCSR関連部署にとっての最大の仕事は「社会の声を聞くこと」です。

例えば、ステイクホルダー・ダイアログ。大半の上場企業はすでに取り入れているようですが、それは「年に一回、CSRレポートに掲載するためだけに」開いているように見えます。

出席者は学識経験者や専門家など、立派な肩書きを持った方たちばかり。私もたまに呼ばれることもあります。

ただ、よく考えてみると、彼らは本当の意味でのステイクホルダーではありません。直接の利害関係に乏しく、実際の会議でも、当たり障りのない発言に終始することもあるようです。

私は以前、ある原発関連企業のCSRレポート向けに第三者意見を求められ、「あれほど過酷な事故が起きたのだから、CSRレポートでも何らかの記述があっても良いのではないか」と書いたところ、後になって「原発についての記述は削除してほしい」と求められたこともありました。

英国の大手小売業マークス&スペンサーは「毎日のようにステークホルダーダイアログを開催する」とのことです。(下田屋毅氏「欧州CSR最前線」第12回「毎日のように『ステークホルダー・ダイアログ』を開く英国企業」

毎日のようにということは、高名な識者をお呼びするのではなく、もっとカジュアルな、普段からの付き合いがある消費者や取引先が多くなるはずです。

そうした「生の声」にちゃんと聞く耳を持つことこそが、本来の意味でのパブリック・リレーションを作り上げることであり、社会的責任を果たし、真の意味で競争力や企業価値を高めることなのです。(オルタナ編集長 森 摂)

森 摂(オルタナ編集長)

森 摂(オルタナ編集長)

株式会社オルタナ代表取締役社長・「オルタナ」編集長 武蔵野大学大学院環境学研究科客員教授。大阪星光学院高校、東京外国語大学スペイン語学科を卒業後、日本経済新聞社入社。編集局流通経済部などを経て 1998年-2001年ロサンゼルス支局長。2006年9月、株式会社オルタナを設立、現在に至る。主な著書に『未来に選ばれる会社-CSRから始まるソーシャル・ブランディング』(学芸出版社、2015年)、『ブランドのDNA』(日経ビジネス、片平秀貴・元東京大学教授と共著、2005年)など。環境省「グッドライフアワード」実行委員、環境省「地域循環共生圏づくりプラットフォーム有識者会議」委員、一般社団法人CSR経営者フォーラム代表理事、日本自動車会議「クルマ・社会・パートナーシップ大賞」選考委員ほか。

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