記事のポイント
- WWFは漁業が直面する課題を特定するプラットフォームを立ち上げた
- 世界の漁業紛争は過去40年で20倍に増えた
- 2030年までに漁業紛争が起きる可能性が高い世界20地域を特定した
世界では、漁場の境界線への侵入や魚類資源の「横取り」などをきっかけに、漁業者間の紛争が絶えない。WWF(世界自然保護基金)によると、世界の漁業紛争は過去40年で20倍に増えたという。WWFは漁業が直面する課題を特定するプラットフォームを立ち上げ、紛争予防と食糧安全保障の強化につなげる。(オルタナ編集部・下村つぐみ)

世界で漁業紛争が増えてきた。
例えば、1980年ごろにサケの回遊パターンの変化によって、米国とカナダの間で紛争が起こった。互いに国境を越えた「横取り」が頻発したことがきっかけだった。紛争はその後10年間も続き、共有資源に損害を与えた。
21世紀初頭には、海洋資源の保護のためにナマコ漁が規制されたことに対し、エクアドルの漁師たちが同国政府に抗議した。その際には、希少動物である「ゾウガメ」が人質にされた。2021年6月には、経済的脆弱性から、コカインなどの密輸を行ったエクアドルの漁師2人が反目するギャングに撃たれて船を奪われた事件も起こった。
今後8年間で、全魚類資源の23%が移動すると予測されており、魚の豊富な地域と魚の乏しい地域との格差が生まれ、より漁業紛争が増大する可能性がある。
北極圏では海氷の融解によって、未開拓だった海域が出現し、石油やガス、鉱物などの資源を求める「ゴールドラッシュ」を引き起こす可能性も高い。
そこで、WWFは米環境保護団体EDFなどと「オーシャンズ・フューチャーズ・プラットフォーム」を立ち上げた。2030年までに海洋資源をめぐる紛争や地政学的緊張が高まる可能性の高い世界20地域を特定する、世界初の試みだ。
漁業紛争が起こる可能性の高い20地域は以下だ。2030年までの魚の資源量の変化や外国漁船の存在、海上の国境紛争などの社会経済的・安全保障的変数を組み合わせて特定した。
北極(カナダ)/ノルウェー(スヴァールバル諸島)/ポーランド/チュニジア共和国/フランス(地中海・コルス島)/地中海東部/ウクライナ/西アフリカ/ギニア湾/モザンビーク共和国/ソマリア連邦共和国/ロシア/南シナ海/太平洋西部/インドネシア/西中央太平洋/メラネシア/メキシコ(大西洋)/ラテンアメリカ/エクアドル共和国
特に、紛争が増加すると予測される地域は、北極海周辺海域、東部熱帯太平洋(日付変更線のあるオセアニアのキリバス共和国から南米のペルー沖辺りまでの海域)、アフリカの角(ソマリアなど)だった。
「私たちの目標は、気候変動と生物多様性の危機に対する解決策を促進し、紛争を未然に防ぐことだ。海洋の健全性を守り、世界中の漁業に依存する何十億もの人々の平和と食糧安全保障の拡大につなげる」と、オーシャンズ・フューチャーズのシニア・ディレクターであるサラ・グレーザー氏は語る。
オーシャンズ・フューチャーズは2025年初頭までに、機械学習モデルを用いて紛争の原因と解決策を予測し、政府・多国間組織などに対して最適な予防措置を提供していく。