大谷選手は水原氏のデューディリジェンスができていなかった

記事のポイント


  1. 大谷翔平投手が専属通訳の水原一平氏の違法賭博問題について声明を発表した
  2. 水原氏は大谷選手の「心理的安全性」を担保する上で最も重要な存在だった
  3. だが、大谷選手は水原氏の「デューディリジェンス」ができていなかった

ドジャースの大谷翔平投手は3月25日(日本時間26日)、専属通訳の水原一平氏の違法賭博問題について声明を発表しました。「水原氏が(大谷選手の)口座からお金を盗み、なおかつ周囲にもウソをついていた」とし、自身の賭博や送金への関与は否定しました。水原氏は大谷選手の心理的安全性を担保する上で最も重要な存在だったと思います。サステナ経営の専門家として、水原氏の賭博問題を読み解きます。(オルタナ編集委員・遠藤直見)

デューデリはもともと会計用語

大谷選手の場合、世界中のファンを楽しませ、明るい気持ちにしてくれるなど、今までの活躍による社会へのプラスのインパクトは計り知れません。

それが一転、今回の件はファンを不安にさせ、悲しませたという意味では、今までのプラスのインパクトを相殺するくらい大きなマイナスの社会的インパクトになるかも知れません。同時に、大谷選手を一つの企業体と仮定した場合には、その企業価値も大幅に毀損される可能性もあります。

サステナ経営的にいえば、大谷選手を軸とするバリューチェーンにおいて最大の依存度・影響度を持つ水原氏というパートナー(取引先)のデューディリジェンスが出来ていなかったということになるのでしょうか。

デューディリジェンスは、もともと会計用語で、投資を行うにあたって、投資対象となる企業や投資先の価値や、隠れ負債やコンプラ違反などのリスクを調査することを指します。

組織や財務活動の調査をするビジネス・デューディリ、財務内容などからリスクを把握するファイナンス・デューディリ、定款や登記事項などの法的なものをチェックするリーガル・デューディリなどがあります。近年、サステナ領域では特に「人権デューディリ」の概念が広がりました。

大谷選手にも価値創造ストーリーがあった

ただ、そもそもガバナンスがまるでできていなかった(ように見える)ことが残念です。

ドジャースという球団が長期視点に立ち、大谷選手が創出する社会的インパクトと経済的インパクトを見込んで、大谷選手に対し巨額の投資を行いました。

通常の見立てでは、大谷選手という超優良企業は、これからも革新を続け、練習設備(製造資本)、コーチやトレーナー(人的資本)、各種データ(知的資本)などの様々な資源を効果的に活用し、最大限のパフォーマンス(社会的インパクトと経済的インパクト)を持続的に創出し続けるはずでした。

それが長期的に(おそらく短期的にも)ドジャースに大きな経済的リターンをもたらし、両者はWinーWinの関係を構築する、さらにファンを始めとする多様なステークホルダー(マスコミなども含む)にも価値をもたらすことになります。

今回の件により、もしかするとこの中長期の価値創造ストーリーが成り立たなくなるかもしれません。このことが社会、経済に及ぼす負の影響は大きいと思います。もちろん、そうならないことを期待しています。

遠藤 直見(オルタナ編集委員/サステナビリティ経営研究家)

遠藤 直見(オルタナ編集委員/サステナビリティ経営研究家)

東北大学理学部数学科卒。NECでソフトウェア開発、品質企画・推進部門を経て、CSR/サステナビリティ推進業務全般を担当。国際社会経済研究所(NECのシンクタンク系グループ企業)の主幹研究員としてサステナビリティ経営の調査・研究に従事。現在はフリーランスのサステナビリティ経営研究家として「日本企業の持続可能な経営のあるべき姿」についての調査・研究に従事。オルタナ編集委員

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キーワード: #サステナビリティ

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