総合化学メーカーのスリーエムジャパンがキッチンスポンジのリサイクルに取り組み、間もなく5年が経つ。同社はこれまで捨てられていた使用済みのスポンジを回収し、再資源化することでサーキュラーエコノミー(循環経済)の実現を目指す。料理教室を展開するABC Cooking Studio(東京・千代田)とも協働し、消費者の行動変容を促したい考えだ。
「キッチンスポンジは、わが子のように大切に育てた製品。食器洗いに役立ててもらうことが一番の目的だが、使い終わった後も、資源として有効活用したいと考えていた」
こう語るのは、仲井智亮・スリーエムジャパンプロダクトマーケティング部マネジャーだ。
同社は2019年7月、「3M スコッチ・ブライトスポンジリサイクルプログラム」を開始。ブランドやメーカーを問わず、キッチンスポンジを回収し、マテリアルリサイクルする取り組みを始めた。
テラサイクルジャパン(横浜市)の協力のもと、回収やリサイクルを行う。集まったスポンジは細かく裁断し、洗浄した上で、新たなプラスチック製品に再生する予定だ。
「社会から信頼される企業であり続けるために、環境問題に取り組むのは当然の時代になった。これまで『捨てる』ことが当たり前だったキッチンスポンジも、リサイクルできるということを広く伝えていきたい」(仲井マネジャー)
■「キッチンから世界を変える」
使い終わったスポンジは、表面についている汚れをよく洗い落とし、十分に乾かす。
テラサイクルのホームページでアカウント登録すれば、だれでも使い終わったスポンジの集荷を依頼できる。重量の規定は2kg以上で、配送料は無料だ。学校やオフィス、自治体単位で集める事例もあるという。
このほか、回収協力店舗に持ち込む方法もある。その一つが、料理教室のABCクッキングスタジオだ。
全国各地で料理教室を展開するABC Cooking Studioは、「キッチンから世界を変える」を使命とし、「食品ロス削減」「飢餓への支援」「プラスチックゴミ削減」など社会課題の解決に取り組んできた。
同社はスリーエムジャパンの取り組みに共感し、2020年10月にキッチンスポンジの回収協力を始めた。現在は、東京・丸の内、東京・新宿、東京・渋谷、横浜市、京都市の5店舗で、回収ボックスを設置している。1個から持ち込める。
ABC Cooking Studio法人営業部の伊賀亮子氏は、「スタジオでは、大量のキッチンスポンジを使っているが、毎週まとめて捨てることに罪悪感があった。ゴミとして扱っていたものが、『資源』になると聞いて新鮮に感じた」と振り返る。
■汚れたスポンジ「料理した証」
スタジオには、生徒や講師が家庭で使ったスポンジを積極的に持ってきてくれるという。
「スタジオに通う人たちは『食』に関心の高い人が多い。当社は、食材を丸ごと使い切る『食品ロス削減1dayレッスン』など、『食』を通じて、環境や社会課題に関心をもってもらうきっかけづくりに力を入れている。SDGsの目標12『つくる責任つかう責任』を果たす上でも、スポンジのリサイクルは重要な取り組みだ」(伊賀氏)
もともと生徒だったABC Cooking Studio法人営業部の原ほのか氏は、スタジオに通っていたころから、リサイクルプログラムに参加している。
「月に1回程度、スポンジを交換するタイミングで、レッスンを予約するという流れができていた。食品トレーや牛乳パックなど容器包装のリサイクルは一般的だが、キッチン用品はあまりなかった。身近な製品のリサイクルは、環境活動に踏み出す一歩になる」と話す。
伊賀氏は「家庭で使ったスポンジを持ってくるというのは、実は心理的なハードルもある。でも、汚れやへたりは『料理した証』。自信を持ってリサイクルに参加してもらえたら」と語った。
■サイエンスで循環経済に貢献
スリーエムジャパンが、リサイクルに取り組む背景には、気候変動や有限資源への依存に対する危機感がある。
世界では、大量生産・大量消費・大量廃棄といったリニア(一方通行)型の経済から、資源を循環させるサーキュラーエコノミー(循環経済)への移行が急速に進む。欧州では、法規制が進み、設計段階から廃棄物を出さないように製品やサービスをデザインすることを求める。
米3M(スリーエム)社は2019年以降、グローバルで新製品の商品化プロセスに入るすべての製品に「サステナビリティ・バリュー・コミットメント(SVC)」を義務付けた。「再利用性」「リサイクル性」「廃棄物の削減」「エネルギーや水の節約」など考慮すべき項目を定める。
同社は「サイエンスで循環型経済に貢献」を掲げ、製品での再生材活用をはじめ、プラスチックや廃棄物の削減にグローバルで取り組む。2021年5月には「2025年までに化石資源由来のバージンプラスチックへの依存を1億2500万ポンド(約5.7万トン)削減する」という目標を設定した。
仲井マネジャーは、「日本法人としてもグローバル目標に沿って、バージンプラスチックへの依存を削減するために、科学とイノベーションを活用していく」と意気込む。
スリーエムジャパンは2022年9月、一部商品の不織布部分をナイロンから再生ポリエステル繊維に変更したほか、リサイクル素材や植物由来の素材を使用した「スコッチ・ブライトグリーナークリーンシリーズ」を発売した。
できるだけ環境負荷が低い製品を開発するとともに、使い終わったスポンジは、回収して再資源化することで、サーキュラーエコノミーの実現に貢献したい考えだ。
「キッチンスポンジには、柔らかいウレタンと汚れ落としに強い不織布を貼り合わせたもの、ネットタイプなど、さまざまな種類があり、それぞれの良さがある。選択肢を増やすことで、環境に配慮した行動のハードルを下げていきたい」(仲井マネジャー)
この5年で、回収したスポンジは240kgに達した。スポンジ1個10gとすると2万4000個に相当する。300kgをめどに再資源化を進めるという。
「企業の持続的成長には、サステナビリティへの取り組みが必須だ。スリーエムジャパンとして、日本のお客さまに必要不可欠なものを提供し続け、さらには社会の課題を解決し、より明るい未来を実現できるよう尽力していきたい」(仲井マネジャー)