総選挙で右から左に振れたフランス、左派も原発で対立

記事のポイント


  1. フランス総選挙は驚きに次ぐ驚きの展開で、極めて不透明な情勢にある
  2. 総選挙で相対多数を獲得した左派連合も、原発への姿勢は内部で対立する
  3. 左派の難民・移民政策は、中道・右派と大きく異なる

2024年6月に実施した欧州議会選挙での極右台頭や、総選挙での左派逆転勝利など、フランス政治が混迷している。パリ五輪を直前に控え、この政局は、気候変動や人権政策にどう影響するのか。世界有数の原発大国のエネルギー政策は変わるのか。同国政治に詳しい慶應義塾大学経済学部の大嶋えり子准教授に寄稿してもらった。(オルタナ編集部)

フランス政治は極めて不透明な状況に

大嶋 えり子

慶應義塾大学経済学部准教授

1984年、東京都生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科博士後期課程単位取得満期退学。博士(政治学)。金城学院大学国際情報学部講師などを経て現職。専門はフランス政治と国際関係。

■驚きに次ぐ驚きの展開

2024年夏、フランス政界は驚きに次ぐ驚きの展開だった。

一つ目は、6月9日の欧州議会選挙で極右政党「国民連合」が大勝した結果を受けて、マクロン大統領が下院の国民議会の解散を即日発表したことだ。

二つ目の驚きは、その解散翌日だった。2022年の総選挙の際に結成し、昨年からパレスチナ情勢をめぐり空中分解していた左派連合が、「新人民戦線」という新たな名を冠して誕生した。

ここから実質的に、「新人民戦線」と、選挙前まで議会で相対多数を占めていた中道のマクロン派と、「国民連合」の三者による選挙戦が始まった。この三大ブロックに加えて、「国民連合」との協力を拒否した保守の「共和党」がどうにか議席を守ろうとする展開となった。

「小選挙区二回投票制」という複雑な制度ゆえ、予測が困難であることを誰もが承知しつつも、あらゆる情勢調査が「国民連合」の勝利を予測していた。初めてフランスで極右政党が選挙を通じて政権を掌握する事態を、多くの人が期待あるいは不安をもって待ち構えた。

三つ目の驚き。あらゆる予測を裏切り、7月7日の決選投票で左派連合の「新人民戦線」が相対多数を獲得し、「国民連合」は首位どころか、マクロン派に次いで三位に終わったことだ。

情勢調査の難しさと、「新人民戦線」およびマクロン派の一部による「国民連合」候補の当選阻止のための「共和主義戦線」と呼ばれる協力関係が極右政権誕生を防いだ点が印象に残る結果となった。

■フランス現体制は連立政権の習慣がない

だが、左派にとっても、マクロン派にとっても、極右政権を回避できたからと言って、手放しで喜べる事態ではない。次の大きな課題は大統領による首相任命である。どのような内閣ができるにしても、議会における相対多数のみで政権を運営していくことが必要になる。

四党からなる「新人民戦線」は政権担当を主張し、今週中に首相候補の名前を挙げると宣言しているものの、推薦できる人物を一人に絞り込むことに難儀している。

一方で、マクロン派は「共和党」などと連立を組み、「新人民戦線」の議席数を上回ろうと交渉を続けているが、マクロン派の中でも意見は一致していない。

フランスの現体制は連立政権の習慣がなく、1958年に第五共和制が始まってからこうした事態は異例といえる。今後連立政権が誕生する可能性があるため、メディアも、この事態を理解するために、イタリアやドイツなどでどのように連立が組まれてきたかを毎日のように報道している。

■環境と人権の観点から、新政権の公約を概観する
■左派連合の「新人民戦線」内は、「原発」に対する姿勢で対立
■難民の権利拡充を目指す「新人民戦線」は、中道・右派と一線を画す
■環境保護政策に消極的な保守「共和党」
■マクロン派と「共和党」は、移民・難民の管理強化で一致
■過半数勢力不在の中、短期の見通しすら不透明に

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オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

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