その際に、是非ご理解いただきたい点がある。原則主義についてだ。ISO26000は社会的責任に関しては具体的に詳しく書いてあるから、ピンとこないかも知れないが、実は原則主義を基本としている。「関連行動と期待」に書いてある内容は、決してチェックリストではない。背景や原則を理解し、そこから具体的にとるべき行動を主体的に考える、そのことに役立つヒント、アクション事例が書かれているのである。
これはCSRの本質論とも大いにかかわる。そもそもCSRとは応用問題を解き続けるようなもので、正解はひとつとは限らず、模範解答が存在しないことも多い。原則に照らしてどう判断していくか、思考力や応用力が試される。そこで必要なのは想像力を働かせてよく考えることであり、ステークホルダーとの対話プロセスを大切にしていくことである。そして、インスピレーションを与えてくれるのが具体的な事例だ。
CSRにセクシーさを
ISO26000作業部会の初期段階において、規格の構造を決めるタスクで筆者が主張したのは、アクション・オリエンテッドなものにすることだった。プロセス管理に重きを置くのではなく、問題解決のための具体行動を促すものにしたい、という思いだった。そのためには豊富な取り組み事例を並べ、それをヒントにするのが有用だ。実際に規格はそういう構成になっている。例えば環境パートでは、まず環境に関する原則や考慮事項が書かれている。予防的アプローチ、ライフサイクル・アプローチなど抽象的、概念的だ。ではそうした考えを具現化するために何をすればよいか。そのヒントが、「関連行動と期待」に例示されている。
最近、CSRはセクシーさを失った、という言葉を耳にする。制度化、マニュアル化、パターン化がすすみ、ドキドキするような魅力がなくなってしまったという意味だ。もしISO26000がその傾向に拍車をかける結果になっているとすれば、それは本意ではなく大変残念なことである。原則を理解したうえで、自由な発想の下に、アイデア・ヒントの宝庫として活用してもらいたいと願っている。
【せき・まさお】2001 年から損保ジャパンでCSR の推進に携わる。2005 年から日本産業界代表エキスパートとしてISO26000 策定作業部会に参加。2013年より明治大学特任准教授。経団連CBCC(企業市民協議会)企画部会長、環境省・経済産業省・文部科学省の部会委員を務める。著書に『ISO26000 を読む』(日科技連)、共著に『会社員のためのCSR 経営入門』(第一法規)、『社会貢献によるビジネス・イノベーション』(丸善出版)などがある。
(この記事は株式会社オルタナが発行する「CSRmonthly」第6号(2013年3月5日発行)」から転載しました)
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