◆未来の時間の概念に乏しい国民性
――では、住民も危機感を感じていないと。
気候変動については小学校の理科の授業でも扱っていて一般的な知識だが、将来の危機を心底ポンペイ人が感じているとは見受けられない。出張や会議や研修に参加して学んで帰っても、実際に事が運ぶことはほとんどないようだ。南の島ののんびりした人たちなので、日本人から見れば信じられないようなことも多い。
根底には、彼らの刹那的な生き方、つまり、未来の時間の概念に乏しい性質があると思う。年中夏で、いつでも魚やバナナ、ココナッツ、タロイモ、ヤムイモ、パンの実があるから、食うに困らない。昨日と今日と明日が変わらない毎日。この気候と自然環境が、ポンペイ人のマインドを支えている。
自給自足的な生活を続けている多くの住民を見ていると、バナナや魚を採るのは仕事ではなく生活の一部。そもそも仕事という概念がなく、貨幣すなわちモノを手にしたいがために働くようになったようだ。時間に縛られて働いたり成果を出すことは彼らの価値観にはないこと。だから、8時間、週5日という勤務体系があっても、日本人のように時間に従って働く人はいない(笑)。
◆政治家は金策に奔走
この国の環境問題といえばゴミ問題と気候変動だが、今、政治家の頭の中は「どれくらいの援助を先進国から受けられるか」ばかり。国家予算の約半分を占める米国からの援助「コンパクトマネー」が2023年に終了するからだ。それ以降の財政への備えが最大の関心事となっている。
米軍基地はないが、ミクロネシア連邦は米国にとって、アジアをにらむ太平洋の最前線であり、膨大な援助にも、軍事的な利用価値のためという側面がある。最近は中国の民間企業がヤップ州に大規模リゾートホテル開発を計画し、州政府や連邦政府と接触を始めている。小国ながら国際社会の駆け引きに多いに飲まれているわけだが、むしろ大国の思惑を積極的に利用しようとしているのかもしれない。
援助によって彼らは本来の能力や生活スタイルを越えた甘い生活ができるにようになっている。物質の豊かさを知ってしまい、簡便なインスタントフードや大量に輸入される自動車に魅了されている。その結果、生活習慣病がはびこり、世界一の肥満国になった。こうして固有の文化と環境が壊れていくのを見るのは切ない。