サラヤ 海ごみの課題解決、対馬から世界へ

自然豊かな国境の島・対馬
自然豊かな国境の島・対馬

サラヤ(大阪市)は2024年1月、日本で最も多くの海洋ごみが漂着する長崎・対馬で、関連会社「ブルーオーシャン対馬」(対馬市)を設立した。海洋プラスチックごみをはじめとした海の問題を解決するための新会社だ。課題先進地である対馬から、世界に向けて、課題解決のモデル事業の提案を目指す。

川口幹子・ブルーオーシャン対馬社長

日本と朝鮮半島の間に位置する国境の島・対馬は、かつて中継貿易の拠点として栄えていた。飛鳥時代には小野妹子が遣隋使として初めて、対馬から朝鮮半島に渡った。

「交易が盛んだった対馬は、歴史的に新しいものを取り入れ、発信しようという風土がある。現在は『海洋プラスチックごみ問題』という新たな課題に直面している。課題先進地である対馬から、世界に向けて、解決策を示すことができるのではないか」

こう語るのは、ブルーオーシャン対馬の川口幹子(もとこ)社長だ。生態学の研究者だった川口社長は、2011年に地域おこし協力隊として対馬に移住。任期終了後も対馬に残り、グリーンツーリズムや環境教育プログラムを手掛けてきた。

2024年1月には、サラヤが立ち上げたブルーオーシャン対馬の社長に就任し、海ごみ問題解決に取り組んでいる。

多彩なプラごみ 海岸埋め尽くす

対馬で生まれ育った上野芳喜・対馬CAPPA代表理事

赤やオレンジ、青などさまざまな色のポリタンクが海岸にごろごろ転がっている。漁網は岩に絡み付き、粉々になった発砲スチロールが砂浜を埋め尽くす。ペットボトルや食品包装も散らばっている。

対馬には、こうしたプラごみが年間約3―4万立法㍍も流れ着くという。

そのため対馬市は、年に数億円の予算をかけて回収・処理を行っている。だが、ごみの量は膨大で、長く複雑に入り組んだ海岸へのアクセスが困難なことから、回収できるのは一部にとどまる。

「せっかく対馬に来てもらったのなら、美しい海を見てほしいのが本音。でも、漂着ごみが深刻なのも現実だ」。一般社団法人対馬CAPPA(カッパ、対馬市)の上野芳喜代表理事が語る。

対馬CAPPAは、対馬の美しい自然を次世代に引き継ぐために、海岸清掃イベントや海ごみ対策にかかわる啓発活動を行う。

対馬には、地形的に中国や韓国からのごみが多く漂着する。しかし、上野代表理事は「日本のごみも海に流出している。対馬だけが被害者なのではない」と話す。

「私たちは、プラスチックの利便性を享受した世代だ。将来世代をこの問題の被害者にしてはいけない。美しい自然を残すのが、私たちの責任。より多くの人に現実を知ってもらい、少しでも自分たちの暮らしについて考えてもらうきっかけづくりができたら」(上野代表理事)

対馬市は22年6月、ごみの無い美しい島を目指そうと「ごみゼロアイランド対馬宣言」を採択した。海ごみだけではなく、島内で発生する廃棄物全般を減らすのが目的だ。

対馬では人口減少が続く一方で、廃棄物は増えているという。離島である対馬では、廃棄物処理のコストもかさむ。

岩に絡み付く漁網。足場も悪く、取り除くのが困難だ
岩に絡み付く漁網。足場も悪く、取り除くのが困難だ

海ごみ問題に 根本的な対策を

サラヤは22年9月、特定非営利活動法人ゼリ・ジャパン(東京・品川)などとともに対馬市と「『対馬モデル』研究開発連携協定」を締結し、廃棄物の問題に取り組んできた。

「対馬モデル」とは、海ごみや島内で発生する廃棄物を再生材やエネルギーとして活用し、「サーキュラーエコノミー(循環経済)」を実現する事業モデルだ。2025年大阪・関西万博では、対馬での研究成果を踏まえ、世界に向けて「対馬モデル」を発信する予定だ。

「対馬モデル」構築の一環で、新たに設立したブルーオーシャン対馬は、「R e(リ)デザイン」を掲げ、海ごみを含めた島内の廃棄物の再資源化に取り組む。

しかし、川口社長は「海ごみは発生源や素材が多岐にわたり、回収や分別に莫大な労力がかかる。紫外線や波による劣化が激しく、塩分や重金属なども付着し、再利用する上で品質の問題がある」と、その難しさを語る。

「海ごみをリサイクルした製品は、話題性があっても一過性で終わってしまうことが多い。根本的な解決は、海ごみを発生させないこと。製品設計から流通、使用後の回収、再資源化、廃棄に至るまで、製品のライフサイクル全体を『デザイン』し直す必要があるのではないか」と訴える。

10月末に対馬を視察したサラヤの廣岡竜也・広報宣伝統括部長は、「現地を視察し、事の深刻さや複雑さを改めて思い知った。専門家と連携しながら、問題の本質をとらえ、本業を通じた解決策を検討していきたい」と話す。

サラヤのグループ会社であるサラヤメディテック社は、回収の問題に対処するため、接岸できる重機導入船の開発を進める。25年度には実証実験を開始する予定だ。

廣岡部長は「海ごみ問題は1社で解決できるものではない。ボルネオ環境保全活動のように、適切にコミュニケーションを取れば、消費者は力になってくれるはずだ。メーカーとしての接点を生かし、より多くの人を巻き込んで活動をしていきたい」と展望を語った。

海洋保全について学べるパビリオン  

サラヤは、2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)で、特定非営利活動法人ゼリ・ジャパンのパビリオン「BLUE OCEAN DOME」(ブルーオーシャン・ドーム)を支援している。来館者が楽しみながら海洋資源の持続的活用と海洋生態系の保護について学べるパビリオンだ。サラヤは5月26日から6月1日を「SARAYAウィーク」として、パビリオン内ドームCで、サラヤの次世代の海洋保全やサスティナビリティへの取り組みを含めた展示を行う。

(PR)サラヤ

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オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

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